【今日のお話のポイント】
- 同じものでも、使い方しだいで価値は大きく変わる
- 重さは目に見えても、大切さは心で考えなければ分からない
- 知恵とは、比べにくいものを正しく比べる力でもある
むかしむかし、にぎやかな市場のある町に、焼きたての丸いパンで有名な店がありました。店を切り盛りしていたのは、仲のよい姉妹、姉のミリアムと妹のサラでした。
二人は毎朝まだ暗いうちから起きて、生地をこね、火をおこし、町のみんなが目を覚ますころには香ばしいパンをずらりと並べていました。そのパンを楽しみにしている人はたくさんいて、子どもも大人も、店の前を通るたびに笑顔になりました。
ある日、その町に、自分の持つ大きな金のはかりを自慢する商人がやってきました。商人は広場で人々を集めて言いました。
「この世のどんなものでも、わたしのはかりなら価値を見抜ける。重いものほど価値があるのだ」
人々は「へえ」と感心しましたが、ミリアムは首をかしげました。サラも小さな声で言いました。
「でも、重いからって、いつも大切とは限らないよね」
それを聞いた商人は鼻で笑いました。
「では明日、お前たちの店で勝負をしよう。わたしが『この町でいちばん重くて価値あるもの』を選んでみせる。お前たちも一つ持ってくるがいい」
翌朝、広場には大勢の人が集まりました。商人は大きな石、鉄のくぎ、銀貨の袋などを次々とはかりに載せては、得意そうにうなずきました。
「見ろ。石は重い。鉄も重い。だから価値がある」
するとミリアムは、大きな焼きたてパンを一つ持ってきました。ふっくらとしていましたが、石よりずっと軽いものでした。
商人は笑って言いました。
「そんな軽いものが勝負になるものか」
けれどサラは、パンを三つに切って、広場にいた人たちへ配り始めました。一つは、朝から何も食べていない荷車引きのおじさんに。一つは、小さな弟と並んでいた女の子に。もう一つは、遠くから歩いてきた旅人に渡しました。
三人は、ほっとした顔でパンを食べました。女の子は「おなかがすいて泣きそうだったの」と言い、旅人は「こんなにあたたかいパンは久しぶりだ」と目を細めました。
サラは商人に向かって言いました。
「石はたしかに重いです。でも、おなかはいっぱいにしてくれません。鉄はたしかに強いです。でも、さびたら困ることもあります。けれどパンは、軽くても、人に元気をくれます」
商人はまだ納得しませんでした。
「そんなものは気分の話だ。重さは正確に量れるが、ありがたさなど量れはしない」
そこでミリアムは、店の奥からもう一つ、古びた小さな包みを持ってきました。中には、何年も使い込まれたパンの種が入っていました。
「これは、おばあちゃんから受け継いだ種です。これがあれば、明日もパンが焼けます。明後日も、その次の日もです。一つの石は、ただ重いだけ。でもこの種は、軽くても、人を何度も助けます」
広場の人たちは、しんと静かになりました。毎朝その店のパンに助けられてきたことを、みんな思い出したのです。
そのとき、町で一番年長の先生が前に出て言いました。
「商人どの。君のはかりは『重さ』は量れる。だが、『役に立つ重み』までは量れないようだな。人の暮らしを支えるものには、目に見えない重みがある」
商人は金のはかりを見つめ、少し赤くなりました。そして小さく頭を下げました。
「どうやら、わたしは量れるものだけが大事だと思い込んでいたようだ」
その日から商人は、品物の重さだけでなく、誰のために、どう役立つのかをたずねるようになったそうです。
パンは石ほど重くありません。でも、疲れた人を元気にし、明日の力をつくってくれます。本当に価値のあるものは、ただ重いだけではなく、誰かの暮らしを支えるものなのかもしれません。



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