【今日のお話のポイント】
- 分け合うことは、減らすことではなく、続けることにつながる
- 相手を負かすより、みんなが困らない方法を探す方が賢い
- 約束は、相手をしばるためでなく、暮らしを守るためにある
むかしむかし、雨の少ない村に、一つだけ大きな井戸がありました。その井戸の水は冷たくておいしく、村の人たちはみな、その水で料理をし、洗濯をし、畑にまく水も工夫して使っていました。
井戸のすぐ近くに、アロンとベンという二人の男が住んでいました。二人とも働き者でしたが、どちらも少し頑固でした。そしてある夏、雨がなかなか降らなかったため、井戸の水がいつもより少なくなってしまいました。
すると二人は、毎朝、水差しを持って井戸へ行くたびに言い争うようになりました。
「先に来たのはわたしだ!」
「いや、うちには小さい子がいるんだ。今日は多く必要なんだ!」
最初は口げんかだけでしたが、だんだん顔を合わせるだけで不機嫌になるほどになってしまいました。村の人たちも困り果てました。このままでは、井戸ばたがけんかの場所になってしまいます。
ある日、村の学校で子どもたちに読み書きを教えている先生が、二人を呼びました。先生は、大きな水差しを三つ机の上に並べました。
「君たちは、相手が多く取ることばかり心配している。でも本当に考えるべきは、『この井戸の水をどうすれば長く守れるか』ではないのかね」
アロンはむっとして言いました。
「そんなことは分かっています。でも相手が先にたくさん取れば、うちが困るんです」
ベンも負けじと言いました。
「こっちだって同じだ」
先生は何も言わず、三つの水差しのうち二つには水をなみなみと入れ、最後の一つには半分だけ水を入れました。
「さて、もし毎日、自分の水差しだけを満たそうと急いだら、最後の半分の水差しはどうなる?」
「すぐなくなります」
「取り合いになります」
二人は同時に答えました。
先生はうなずきました。
「では、最初から『今日はここまで』と決め、足りない日は助け合うとしたら?」
アロンとベンは黙り込みました。たしかに、自分が多く取ることしか考えていなかったと気づいたのです。
そこで先生は提案しました。毎朝まず、二人で井戸の水位を見て、その日の取り分を決めること。家族に急な病人が出た日や、小さな子どもが熱を出した日は、もう一方が少し譲ること。そして、週に一度は井戸の周りをいっしょに掃除し、水をむだにこぼさない工夫をすることです。
二人は半信半疑でしたが、やってみることにしました。最初の数日はぎこちなく、「今日はそっちが少し多いんじゃないか」と心の中で思うこともありました。けれども、取り分が先に決まっていると、けんかは起きません。しかも、一人が困った日はもう一人が手を貸し、次の日には反対に助けてもらえるようになりました。
しばらくすると、不思議なことに、井戸の水は前より安定して使えるようになりました。みんながあわてて汲まなくなり、こぼす水も減り、井戸ばたもきれいに保たれたからです。
ある夕方、アロンが笑って言いました。
「前は、相手に負けないことばかり考えていた。でも今は、井戸がなくならないことの方がずっと大事だ」
ベンも笑いました。
「うん。分け合うって、減ることじゃなくて、続くようにすることなんだな」
先生はその言葉を聞いて、静かにうなずきました。
井戸の水は、誰か一人のものではありません。暮らしを支える大切なものは、取り合うより守り合う方が長く役に立ちます。約束は自由を減らすためではなく、みんなが安心して暮らすためにあるのです。



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