だれの席がいちばん前? 〜学び舎で起きた静かな逆転〜

だれの席がいちばん前? 〜学び舎で起きた静かな逆転〜 未分類
だれの席がいちばん前? 〜学び舎で起きた静かな逆転〜

【今日のお話のポイント】

  • 本当に学びたい人は、よい席よりも、よい聞き方を大切にする
  • 目立つ場所にいることと、しっかり学ぶことは同じではない
  • 謙虚さは、自分を小さくすることではなく、学びを大きくする力になる

むかしむかし、町はずれに、遠くからも子どもたちが学びに来る小さな学び舎がありました。そこで教えていた先生は、難しい話でもやさしく伝えることで有名でした。

学び舎の中には、先生のすぐ前に三つだけ特別な席がありました。そこへ座ると先生の声が近くで聞けるので、みんなは「一番前の席こそ、賢い子が座るべきだ」と思っていました。

ある日、新しく町長の息子が入ってきました。立派な服を着ていて、持ち物もぴかぴかです。息子は教室に入るなり、一番前の真ん中の席へ座りました。

「ぼくは町長の息子なんだから、ここがふさわしい」

周りの子どもたちは、顔を見合わせました。言い返したい気持ちもありましたが、相手は町長の息子です。みんな黙ってしまいました。

その中に、エステルという小さな女の子がいました。エステルは家が遠く、毎朝誰よりも早く起きて歩いてきますが、いつも後ろの席に座っていました。前へ出ようとしないので、目立つ子ではありませんでした。

先生は何も言わず、その日の授業を始めました。けれども授業の途中で、先生は黒板に長い文章を書き、こう言いました。

「では今から、この文章の中で、一番大切な言葉を三つ見つけてごらんなさい」

町長の息子は、自信たっぷりにすぐ手を挙げました。

「はい、『王』『命令』『勝利』です!」

先生は静かにうなずきましたが、「では、なぜそう思ったのかな」とたずねると、息子は少し言葉につまりました。

次に何人かの子どもが答えましたが、どれも目立つ言葉ばかりでした。

すると後ろの席から、エステルがそっと手を挙げました。

「先生、わたしは『聞く』『待つ』『分ける』だと思います」

教室がざわつきました。どれも大きな言葉ではありません。でも先生は目を細めました。

「どうしてそう思ったの?」

エステルはゆっくり答えました。

「文章の中では、目立つ人たちが何度も失敗しています。でも最後にうまくいったのは、人の話を聞いた人、あわてず待った人、それから自分のものを分けた人でした。だから、大切なのは大きな言葉じゃなくて、物語を動かした言葉だと思いました」

先生はうれしそうに拍手をしました。

「その通り。前に見える言葉が大きいとは限らない。後ろに隠れていても、物語を本当に支えている言葉がある」

町長の息子は、少し顔を赤くしました。そして授業が終わったあと、先生にたずねました。

「どうしてぼくは分からなかったのでしょう」

先生は言いました。

「席が前だからといって、心まで前にあるとは限らないよ。学ぶ人に必要なのは、近い席より、よく聞こうとする耳だ」

翌日、町長の息子は真ん中の席を空け、エステルに言いました。

「きみ、今日はここに座ってよ」

けれどエステルは首を振りました。

「ありがとう。でも、わたしは後ろでも聞けるよ。それより、みんなで順番に座ろうよ」

その提案に、先生も子どもたちもにっこりしました。それから学び舎では、一番前の席は「えらい人の席」ではなく、「その日、一番よく準備してきた人が座る席」になったそうです。

本当に学ぶ人は、見える場所を奪おうとするより、見えにくい大切なことを探そうとします。謙虚な心は、自分を後ろへ下げるだけでなく、学びそのものを前へ進めてくれるのです。

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