・正直でいることは、すぐに得に見えなくても、信頼という大きな宝になる
・目の前の小さな利益より、あとから残る信用の方がずっと大きい
・本当の賢さは、見ていない人がいても正しいことを選べる強さにある
むかしむかし、大きな市場のある町に、レヴィという少年が住んでいました。レヴィはお父さんの古道具屋を手伝っていて、店先を掃いたり、おつりを渡したり、時には荷物運びもしていました。
お父さんはよく言っていました。
「店で一番大切なのは品物じゃない。信頼だ。信頼をなくした店は、扉が開いていても、人が入ってこなくなる」
ある日、町でも特に有名な織物商人が店にやってきました。商人は古い木箱をいくつか買い、銀貨を何枚も払っていきました。忙しい時間だったので、レヴィは夢中で数えて、おつりを渡しました。
ところが夕方、床を掃いていたレヴィは、机の下に一枚の銀貨が落ちているのを見つけました。よく見ると、その日に織物商人が使っていた袋の印と同じ印が付いています。
レヴィの胸はどきりとしました。
「もしかして、あの商人さんのお金かもしれない」
でももう日は傾き、市場の店じまいも始まっています。お父さんは奥で帳面をつけていて、まだこの銀貨に気づいていません。もし言わなければ、そのまま店のお金にまぎれてしまうでしょう。
そのとき、近所の年上の少年が通りかかって言いました。
「落ちていたなら、もうお前のものみたいなものだろ。神さまだって分からないさ」
レヴィは銀貨を見つめました。新しい靴が買えるかもしれません。壊れたかばんだって直せます。ほしいものが、いくつも頭に浮かびました。
でも同時に、お父さんの言葉も思い出したのです。
『信頼をなくした店は、扉が開いていても、人が入ってこなくなる』
レヴィはぎゅっと銀貨を握りしめ、お父さんのところへ行きました。
「これ、たぶん今日のお客さんのものだと思う」
お父さんは銀貨を見て、しばらく黙っていました。そして言いました。
「市場はもう閉まりかけている。でも、まだ間に合うかもしれない。いっしょに探しに行こう」
二人は急いで市場を走りました。魚屋の前、布屋の前、井戸ばた、町の門の近くまで見に行きましたが、なかなか商人は見つかりません。やっと空が赤くなったころ、町のはずれで荷車を止めていた織物商人を見つけました。
「お待ちください!」
レヴィが息を切らして声をかけると、商人は驚いて振り向きました。事情を話して銀貨を差し出すと、商人は目を丸くしました。
「これは確かに、わたしの商い袋の銀貨だ。なくしたことにも気づいていなかったよ」
商人は感心して、レヴィにその銀貨を褒美として返そうとしました。けれどレヴィは首を振りました。
「ぼくは、落とし主に返したかっただけです」
商人はますます感心しました。そして次の日、市場の広場でみんなに言ったのです。
「古道具を買うなら、あの親子の店へ行きなさい。あそこには、品物だけでなく、正直さがある」
その言葉は町じゅうに広まりました。すると不思議なことに、店には前より多くのお客が来るようになりました。品物の値段だけでなく、「あの店なら安心だ」と思ってもらえたからです。
夜、お父さんはレヴィの頭をなでて言いました。
「今日は銀貨一枚より、ずっと大きなものを手に入れたな」
レヴィはうなずきました。すぐに何かをもらえなくても、正しいことを選んだ心は、不思議とあたたかかったのです。
目の前の小さな得は、すぐ消えてしまうことがあります。でも信頼は、積み重なるほど大きな宝になります。見ている人がいなくても正しいことを選べる人は、あとで多くの人から信じてもらえるのです。
この物語は、ユダヤの学びの伝統に伝わる話を、子ども向けにやさしい日本語で再話したものです。
もとになった話
タルムードに伝わる知恵の物語より



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