・見た目や甘い言葉にだまされず、自分の頭でよく考える
・ピンチのときほど、あわてずに相手の「欲」を逆手にとる
・「おいしすぎる話」には必ず裏があることを知る
むかしむかし、ある森に、一匹のとてもお腹を空かせたオオカミが住んでいました。オオカミは何日も獲物を見つけることができず、お腹と背中がくっつきそうになりながら、フラフラと森を歩いていました。
そこへ、一匹のキツネが通りかかりました。オオカミはギラリと目を光らせ、キツネを捕まえて言いました。
「おい、キツネ! ついに見つけたぞ。お前を食べて、このひどい空腹を満たしてやる!」
キツネは心臓が飛び出しそうなほど驚きましたが、ここで泣き叫んでも食べられるだけだと分かっていました。キツネは震える声をおさえ、わざと楽しそうな顔をして見せました。
「おやおや、オオカミの旦那。私のような痩せたキツネを食べて、本当にお腹がいっぱいになりますか? 実は、もっと素晴らしい『ごちそう』がある場所を知っているんですよ。私を逃がしてくれれば、そこへ案内してあげましょう」
オオカミは疑い深い目でキツネを見ました。
「ごちそうだと? どこにあるんだ。もし嘘だったら、ただじゃおかないぞ」
キツネはオオカミを連れて、村の近くにある古い井戸のところへやってきました。その日はとても静かな夜で、空にはまん丸な満月が輝いていました。井戸をのぞき込むと、深い水の底に、その満月がくっきりときれいに映っていました。
「見てください、旦那。あの井戸の底に、世界で一番大きな『丸いチーズ』が落ちているでしょう? あれは、村の人たちが隠しておいた特別なごちそうなんですよ」
オオカミは井戸をのぞき込みました。水に映った月は、黄色くて丸くて、本当においしそうな特大のチーズに見えました。
「おお、なんて美味そうなチーズだ! しかし、あんな深いところまでどうやって行くんだ?」
井戸には、滑車(かっしゃ)に一本の縄がかけられ、両端に「つるべ桶」が一つずつ付いていました。一方が上がれば、もう一方が下がる仕組みです。
キツネはひらりと、上にある方の桶に飛び乗りました。キツネは軽いので、そのままスルスルと井戸の底へと降りていきました。
「旦那、見てください! チーズはすぐそこです。あまりに大きくて、私一人では持ち上げられません。さあ、あなたも反対側の桶に乗って、降りてきてください!」
オオカミは、キツネがチーズを独り占めするのではないかと心配になり、慌てて地上に残っていたもう一つの桶に飛び乗りました。
オオカミはキツネよりもずっと体が大きく、体重も重いので、オオカミが乗った桶は勢いよく下がり始めました。それと同時に、反対側の桶に乗っていたキツネが、スルスルと地上に向かって上がっていきました。
井戸の真ん中あたりで、二人の乗った桶がすれ違いました。
驚いたオオカミが叫びました。
「おい、キツネ! どうしてお前は上がっていくんだ? 下に降りてきてチーズを分けるんじゃないのか!」
キツネは、空に向かって上がっていく桶の中から、涼しい顔でこう答えました。
「旦那、これがこの世の仕組みですよ。一人が上がれば、一人が下がる。一人が得をすれば、一人が損をする。……お月様をチーズだと思い込むような欲張りなあなたには、そこがお似合いの場所ですよ!」
ポン!と地面に飛び降りたキツネは、そのまま一目散に森の奥へと逃げていきました。
井戸の底に取り残されたオオカミは、慌てて水の中のチーズを掴もうとしましたが、手が水に触れた瞬間、チーズ(お月様の影)はゆらゆらと揺れて消えてしまいました。
「だまされたーっ! これはチーズじゃない、ただの光だ!」
オオカミは冷たい水の底で、自分の浅ましさを後悔しました。キツネを食べてしまおうという欲と、目の前の偽物のチーズに目を奪われたせいで、こんな罠にかかってしまったのです。
しばらくして、村の人が水を汲みにやってきました。桶が重いので「おや、今日は大物が掛かっているぞ」と引き上げられたオオカミは、命からがら逃げ出しましたが、もう二度とキツネの言葉を簡単に信じることはありませんでした。
このお話は、私たちに「知恵と欲」について教えてくれます。
どんなに目の前に美味しそうなものがぶら下がっていても、一歩立ち止まって「これは本当かな?」と疑ってみる力が必要です。そして、誰かを騙して自分だけが得をしようとすると、最後にはその「欲」が自分をピンチに追い込んでしまうのですよ。
キツネは逃げることができましたが、彼が使ったのは単なる「嘘」ではなく、オオカミが持っている「欲張りな心」を映し出す鏡だったのかもしれませんね。
1) オオカミが井戸に飛び込んだのは、どうしてだったかな?
2) 井戸の底のチーズが「お月様の影」だと、オオカミはどうして気づけなかったんだろう?
3) あなたがキツネだったら、オオカミに追いかけられたとき、どんな「とんち」で逃げるか考えてみて!



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