ふたりの屋台、ひとつの約束 〜利益はどう分ける?〜

ふたりの屋台、ひとつの約束 〜利益はどう分ける?〜 学びと対話
【今日のお話のポイント】
いっしょに商売をするときは、お金を出す人働く人で役割がちがう。
だからこそ、最初に「どう分けるか」を決めておくと、ケンカが減って、長く続く。

※このお話は、タルムードで語られる「共同出資・共同経営(パートナーシップ)の利益配分」の考え方(Bava Metzia などで議論されるテーマ)を、子ども向けにやさしく物語にしたものです。

春のはじめ。
町の広場では「おまつり市」が開かれることになりました。
屋台がずらりと並び、子どもたちの笑い声が風に乗って走っていきます。

小学四年のユウタは、友だちのケンといっしょに、屋台を出すことにしました。
売るのは――「手づくりレモン水」。
レモンの香りと、はちみつのやさしい甘さ。
暑い日には、きっと売れるはず。

「絶対もうかるって!」
ケンは目をきらきらさせました。
「ぼく、看板描く! 声出しもする!」

ユウタもワクワクしていました。
でもひとつ問題がありました。

材料のお金。
レモン、はちみつ、氷、カップ、ストロー。
全部そろえると、けっこうかかります。

ユウタは家で相談して、お母さんから少しだけお金を借りました。
それから、貯めていたおこづかいも足しました。

一方、ケンは言いました。
「うちは今月きびしいから、お金は出せない」
「でも、そのぶんめっちゃ働く!」

ユウタはうなずきました。
(お金を出すのはぼく、働くのはケン。いいじゃん)

…そのときは。


当日。
屋台は大当たりでした。

「レモン水、ください!」
「冷たいのありますか?」
「もう一杯!」

ケンの声はよく通って、道を歩く人が立ち止まります。
ユウタは手が止まらないくらい、氷を入れて、レモンをしぼって、混ぜて、渡します。
ふたりとも汗だく。
でも、楽しい。

夕方、屋台をたたんだあと。
売上のお金を数えたら――なんと、思った以上に残っていました。

「やったー!!」
ケンが両手を上げました。
「利益だ! これ、半分こだよね?」

その一言で、ユウタの手が止まりました。

(半分こ…?)
(でも、材料代はぼくが出した)
(ケンは働いてくれたけど…)

ユウタは急に、胸のあたりがモヤモヤしてきました。
「……うーん」
「ちょっと待って。材料代を引いたら、いくら残るの?」

ケンは顔をしかめました。
「え? だって売上は売上じゃん」
「ぼくもずっと声出して、働いたんだよ?」

ユウタも言い返しそうになりました。
「ぼくだって働いたし、しかもお金も出したし…」

ふたりの間に、重たい沈黙が落ちました。
さっきまで楽しかったのに。
風が冷たく感じます。

そのとき、屋台の片づけを手伝っていた、近所のおじいさん――相談ごとの上手な先生が、ふたりを見て言いました。

「おや、もうけ話で顔がくもってるね」
「商売は、売れたときより、分けるときがむずかしいんだ」


先生の家の縁側に座って、ふたりは話しました。
材料代はユウタが出したこと。
ケンはお金は出せないけど、声出しや看板で頑張ったこと。
そして、今ケンは「半分こ」だと思っていること。

先生はうなずきながら聞きました。
「なるほど。じゃあ、質問だ」

先生は机の上に、石を二つ置きました。
片方は白い石、もう片方は黒い石。

「白い石は“お金”」
「黒い石は“働く力”」

先生は白い石を指で押しました。
「お金を出すと、もし失敗したときに損をする」
「つまり“リスク”を引き受ける」

次に黒い石を指で押しました。
「働く力を出すと、時間と体力を使う」
「つまり“労力”を引き受ける」

先生は、二つの石を近づけました。
「共同で商売するってのは、リスクと労力を合わせることだ」
「だから、分け方も“合わせた形”にしないと、どちらかが苦しくなる」

ユウタは聞きました。
「じゃあ、どう分ければいいの?」

先生はにっこり。
「大事なのは、順番だよ」


先生の「分け方の順番」

先生は紙に、太い字で書きました。

  1. まず、出したお金(材料代)を戻す
  2. 次に、残ったもの(利益)を分ける
  3. 利益の分け方は、最初に決める(ルール)

「材料代を戻すって…」
ケンは少し不安そうに言いました。
「じゃあ、ぼくは何ももらえないの?」

先生は首を振りました。
「もらえる。ちゃんとね」
「材料代が戻ったあとに残るのが“利益”」
「それを、働いた分も考えて分けるんだ」

ユウタはほっとしました。
(まず戻す、ってわかりやすい)

先生は続けました。
「そして、一番大事なのは、始める前に決めておくこと
「売れてから決めると、心が欲しくなる」
「欲しくなると、友だちは敵に見える」

その言葉に、ふたりは黙りました。
さっき、まさにそうだったからです。


先生は、子どもでも使えるように、簡単な分け方を3つ教えてくれました。

分け方案A:材料代を戻して、利益は半分こ

  • 向いてる:ふたりとも同じくらい働いたとき
  • やり方:材料代→ユウタへ返す。残り→半分こ。

分け方案B:材料代を戻して、利益は「働いた時間」で分ける

  • 向いてる:働いた量に差があるとき
  • :ユウタ3時間、ケン5時間なら、利益を3:5で分ける。

分け方案C:材料代を戻して、利益は「6:4」など最初に決める

  • 向いてる:役割がはっきりしてるとき(お金役/声出し役)
  • コツ:納得できる数字にする。ケンが多めでもOK、ユウタが多めでもOK。大事なのは“合意”。

ケンは腕を組んで言いました。
「ぼく、いっぱい声出したし、呼び込みもした」
「利益、ちょっと多めがいい…」

ユウタは言いました。
「うーん。ぼくは材料代出したし、仕込みもした」
「でも呼び込みも大事だし…」

先生は笑いました。
「いいね。ちゃんと話し合ってる」
「じゃあ、今日は“C”でいこう」
「利益は、ユウタ6:ケン4。どう?」

ケンは一瞬むっとした顔をしましたが、すぐに考え直しました。
「……材料代を戻してから、利益があるんだよね」
「それなら、4でもいいかも」

ユウタも言いました。
「ケンがいなかったら、売れなかったと思う」
「だから、4は少なくない」

ふたりは顔を見合わせて、ふっと笑いました。
さっきまでのモヤモヤが、少し薄くなりました。


家に帰って、ふたりは紙に書きました。

【屋台の約束】
① まず材料代を戻す(お金を出した人へ)
② 残りを利益として分ける
③ 利益は ユウタ6:ケン4
④ 次からは、始める前に必ず決める

ケンはペンを置いて言いました。
「なんか…これ書くだけで安心するね」
ユウタはうなずきました。
「うん。友だちを疑わなくていい」

先生の言葉が頭に浮かびました。
“信頼があると、ムダな手間が減る”

(分け方のルールって、信頼を守るためのものなんだ)

そして、ユウタはもうひとつ気づきました。
お金の話をするのは、いやらしいことじゃない。
むしろ、仲良く続けるために必要な話なんだ。

💭 いっしょに考えてみよう
1) 売れる前に「分け方」を決めておくと、どうしてケンカが減るのかな?
2) あなたなら、利益をどう分ける?(半分こ/時間で分ける/6:4など)理由も考えてみよう。
3) 友だちとお金の話をするとき、どんな言い方をすると気持ちよく話せる?

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