・小さな助けでも、だれかにとっては大きな光になる
・自分には足りないと思うものでも、役に立つ場面がある
・人を照らす人は、自分の心まで明るくしていく
むかしむかし、石畳の細い道が何本も続く町に、ヨセフという男の子がいました。ヨセフは、何をするにも兄と比べられるのが少し苦手でした。兄は背が高くて力持ち、荷物運びも上手です。けれどヨセフは体が小さく、重いものを持つのは得意ではありませんでした。
ある冬の夕方、町の学びの家で先生が言いました。
「今夜は風が強く、帰り道が暗くなりそうです。だれか、年老いた人たちが安全に家まで帰れるよう、手伝ってくれませんか」
すると兄はすぐに前へ出て言いました。
「ぼくがやります。おじいさんでも荷物でも、何でも運べます」
みんなは感心しました。ヨセフも手伝いたい気持ちはありましたが、自分に何ができるのか分かりません。重い荷を持てるわけでも、道案内に詳しいわけでもなかったからです。
帰り支度をしていると、先生が棚から小さなろうそく立てをいくつか取り出しました。ヨセフはそれを見て、そっと手を挙げました。
「先生、ぼくは大きな荷物は持てないけれど、ろうそくを持つことならできます」
先生はにっこり笑いました。
「それはとても大事な役目です。暗い道では、力より先に明かりが必要なことがありますからね」
こうして兄は荷物を持ち、ヨセフは小さなろうそくを手にして、町の年寄りたちと一緒に坂道を下ることになりました。
最初、ヨセフは少し恥ずかしかったのです。兄は大きな袋を軽々と肩に担ぎ、まわりから「頼もしいねえ」と声をかけられます。自分はただ、風に消えないようにろうそくを守って歩くだけでした。
ところが、細い路地に入ると様子が変わりました。風が建物の間を吹き抜け、石畳のくぼみに影がたまっています。荷物を持つ人たちは、足元が見えづらくなりました。
そのとき、ヨセフが前へ出て、そっと明かりを低くかざしました。
「ここ、石が少し浮いています」
「この角は水たまりがあります」
「段が一つあります。気をつけてください」
年老いた女の人は、ほっとした顔で言いました。
「まあ、よく見えること。あなたの明かりがなかったら、きっとつまずいていたわ」
その言葉を聞いて、ヨセフの胸は少しあたたかくなりました。
さらに進むと、風はますます強くなりました。兄が持っていた荷物の布があおられ、道の真ん中へ落ちそうになります。兄は荷物を支えるのに精いっぱいで、足元まで気が回りません。
ヨセフはろうそくを片手で守りながら、もう片方の手で布の端を押さえました。
「兄さん、こっちの壁ぎわを歩いて」
兄はうなずき、ようやく歩きやすくなりました。
やがて、みんなを無事に家まで送り届けることができました。最後のおじいさんが戸口で振り返り、ヨセフに言いました。
「大きな灯台のような光でなくてもいいんだね。手の中の小さな明かりが、ちゃんとわたしたちを導いてくれた」
家へ帰る道で、兄が照れくさそうに言いました。
「今日は、おればかりが役に立つと思っていた。でも、暗い道では、お前の明かりのほうが先にみんなを助けていたな」
ヨセフは、ちょっとくすぐったい気持ちで笑いました。
「兄さんが荷物を運んでくれたからだよ。どっちか一つじゃ足りなかったんだと思う」
その夜、先生は子どもたちにこう話しました。
「自分には大したことができないと思ってしまう日もあるでしょう。でも、暗い場所では小さな光がいちばん必要になることがあります。大切なのは、自分にできることを見つけて、それを惜しまず差し出すことです」
人は、みんな違う役目を持っています。重いものを持てる人もいれば、道を照らせる人もいます。目立つ大きな働きだけが立派なのではありません。小さなろうそくのような親切が、だれかの足元と心をしっかり照らすことがあるのです。
話が終わったあと、ヨセフはしばらく自分の手の中にあったろうそく立てを見つめていました。昼間に見れば、どこにでもある小さな道具です。けれど暗い道では、それがまるで別のもののように見えました。大きな荷車も強い腕も持っていない自分に、ちゃんと役目があったのだと思うと、胸の奥が静かにあたたかくなりました。
家へ帰ると、お母さんがたずねました。
「今日は、どんなお手伝いをしてきたの?」
ヨセフは最初、「ろうそくを持っていただけだよ」と言いかけました。けれど、すぐに言いなおしました。
「ろうそくで、みんなの足元を見えるようにしたんだ」
お母さんはうれしそうにうなずきました。
「それは、とても大切なお手伝いね。人はつい、大きくて目立つことばかりをすごいと思いがちだけれど、暮らしは小さな助けの積み重ねでできているのよ」
次の日から、ヨセフは町の中でも少しだけものの見方が変わりました。朝、井戸ばたで桶を押さえている子。店の前でぬれた石を拭いているおじさん。学びの家で、みんなが座る前に椅子を整えている女の子。今まで気にもとめなかったそういう人たちの働きが、実はみんなを助ける光なのだと気づいたのです。
ある夕方、学びの家の帰りに小さな子が道の端で立ち止まっていました。靴ひもがほどけてしまったのに、あたりが暗くなって結びにくかったのです。ヨセフは昨日のことを思い出し、持っていた小さな灯りを近くへ寄せました。するとその子は安心してひもを結び直し、「ありがとう」と笑いました。ヨセフは、その笑顔を見て、昨日もらった明かりをまた誰かへ渡せた気がしました。
先生は後日、こんな話もしました。
「太陽のような人になれなくても、星やろうそくのようにはなれます。夜空には、小さな光がたくさんあるからこそ、道が分かるのです」
その言葉を聞いて、子どもたちはみな、自分にもできる小さな光を探してみたくなりました。
その晩、町では風が少し強くなり、店じまいをした人たちが急ぎ足で家へ帰っていました。ヨセフは家の戸口に立ちながら、まだ帰り道にいる人がいないか見ていました。すると、向かいの家のおばあさんが買い物袋を抱えてゆっくり歩いてくるのが見えました。ヨセフはすぐに小さな灯りを持って走り寄り、石につまずかないよう足元を照らしました。
おばあさんは家の前まで来ると、ほっとした顔で言いました。
「ありがとうねえ。目が暗くなる夕方は、こういう小さな明かりが何より助かるんだよ」
ヨセフは、その言葉を聞いて胸がまたあたたかくなりました。ろうそくは短くても、だれかの帰り道を長く守れるのだと分かったからです。
1) ヨセフのろうそくは、どうして大きな荷物と同じくらい大切だったのかな?
2) あなたのまわりには、目立たないけれどみんなを助けている人がいるかな?
3) あなたが今日できる「小さな光」には、どんなものがありそう?
この物語は、ユダヤの学びの伝統に伝わる教えをもとに、子ども向けにやさしい日本語で再話したものです。
もとになった話
人を助ける小さな行いの価値を伝える、ユダヤの知恵の教えより



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