手伝う前にたずねる親切 〜重い包みと坂道〜

手伝う前にたずねる親切 〜重い包みと坂道〜 知恵と機転
手伝う前にたずねる親切 〜重い包みと坂道〜
【今日のお話のポイント】
・助ける前にたずねると、相手が本当に必要なことに近づける
・親切は、自分がしたいことより、相手が困っていることに合わせるのが大切
・聞いてから差し出す手は、相手の気持ちも力も尊重できる

むかしむかし、坂道の途中でルツは、重い包みを持った人を見つけました。すぐにでも手を出したくなりましたが、その人は自分で持ち直そうとしていました。

ラビはルツの肩に手を置いて言いました。
「親切は急いで差し出すだけでは足りません。相手が何を困っているのかを、先にたずねることも親切です」

ルツは近づいて、こう聞きました。
「持ちましょうか。それとも、道をあけたほうがいいですか」
するとその人は、荷物そのものより、結び目がほどけて困っていたことが分かりました。

ルツは包みを持つのではなく、ひもを結び直すのを手伝いました。ほんの少しの違いですが、相手にとって必要だったのは、そのほうだったのです。

その人は笑って言いました。
「ありがとう。勝手に持ち上げられたら、かえって困るところでした」

ルツは、手伝うとは自分がしたいことをするのではなく、相手が本当に必要としていることに近づくことなのだと知りました。

ラビは言いました。
「親切にも耳が必要です。聞いてから差し出した手は、相手の力を奪わずに助けられます」

その日の帰り道、ルツは何度も足をゆるめました。坂道の途中で起こったことは、もう終わったはずなのに、胸の中ではまだ続いているようでした。だれかに一度教わっただけで、人の見え方や自分の手の動き方がこんなに変わるのだろうかと、不思議に思ったのです。

家へ向かう途中でも、朝には見過ごしていたものが目に入りました。道のすみに寄せられた桶、ほどけかけたひも、困り顔で立ち止まる小さな子、言いかけてやめた人の口もと。ルツは、それまでなら景色の一部として流していたものが、今日はみんな「どうしたらよいかな」と自分にたずねてくるように見えました。

その夜、近所の老女といっしょにその話をすると、近所の老女は「ぼくならすぐにはそんなふうにできないかも」と正直に言いました。ルツも、すぐに何でも上手にできるようになったわけではないと思いました。けれど、前より少しだけ立ち止まれること、前より少しだけ人の気持ちを考えられることが、たしかに自分の中へ入ってきているとも感じていました。

翌朝になると、学びの家や広場では、また別の小さな出来事が起こりました。だれかが急ぎ、だれかが迷い、だれかが少し失敗します。けれどルツは、前の日のことを思い出しながら、今度は自分からひとつ先に動いてみました。大きなことではなくても、昨日教わった 自分がしたい助けではなく、相手に本当に要る助けを選ぶこと という知恵を、その場で試してみたかったのです。

最初は、うまくいかないところもありました。言葉を選びすぎて黙りこんでしまったり、気をつかいすぎて一歩が遅れたりもしました。それでもラビは笑って言いました。
「まっすぐできる人も、最初からまっすぐだったわけではありません。よいことは、昨日より少しよくしようとするところから育ちます」

ルツはその言葉を聞いてほっとしました。知恵を学ぶというのは、一度で完璧な人になることではなく、次の場面で少しだけましな選び方ができるようになることなのだと分かったからです。そう思うと、失敗した日のことまで無駄ではなく見えてきました。

数日たつと、近所の老女のほうからも変化が見えました。ルツが前にしたことばや行いを覚えていて、似た場面でまねしようとしたのです。大きな教えは立派な言葉だけで広がるのではなく、目の前で見た小さな手本からも広がっていくのだと、ルツはそのとき気づきました。

ラビは子どもたちを見渡して、あらためてこう話しました。
「知恵は、聞いて終わるものではありません。台所でも、道ばたでも、友だちとのあいだでも、何度も使ってはじめて自分のものになります。そして自分のものになった知恵は、こんどはとなりの人を助ける灯りになります」

ルツはその晩、眠る前にその日あったことを思い返しました。今日は少しできたこと、できなかったこと、次はもう少しよくしたいこと。そんなふうに一日を見直すと、教えは遠い話ではなく、明日の自分へ手渡す道具のように思えました。小さな道具でも、毎日使えば、心の中でたしかな形になっていくのです。

朝になるたびに、ルツは前より少しだけ早く気づこうとしました。だれかの顔つき、部屋の乱れ、言葉の強さ、待っている人の気持ち。気づけることが増えるほど、教えは増えるのではなく、暮らしの中へ静かにしみこんでいくのだと分かってきました。学んだことは本のページに残るだけでなく、その日のふるまいにも残るのです。

それからしばらくして、坂道の途中では前より少しやわらかな場面が増えました。だれかが先に聞くようになり、先に分けるようになり、先に整えるようになり、先に謝るようにもなりました。ひとりの変化は小さくても、暮らしの中へ置かれると、まわりの空気まで少しずつ変えていくのでした。ルツはその様子を見て、善いことは目立たなくても、ちゃんと次の人へ渡っていくのだと感じました。

子どもへの問いかけ(いっしょに考えてみよう)
1) このお話の人は、どんなときに気持ちを変えられたのかな?
2) あなたなら、同じ場面でどんなことばや行動を選ぶかな?
3) 今日のくらしの中で、ひとつだけまねしてみたいことはあるかな?
このお話について
この物語は、手伝うときに相手の本当の必要をたずねる思いやりを伝えるユダヤの教えをもとに、子ども向けに再話したものです。

もとになった話
善意を相手に合わせて用いることを勧める、ユダヤの知恵の教えより

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