・目立たない仕事の中にも、大事な役目がある
・よく見て動く人は、人が気づかない助けを届けられる
・小さな責任を大切にする人は、信頼を集めていく
むかしむかし、町の真ん中に大きな広場がありました。朝には野菜売りが並び、昼には子どもたちが走り回り、夕方には旅人が腰を下ろして休むにぎやかな場所です。
その広場では、毎週ちがう子どもが「ほうき当番」をすることになっていました。けれど人気のない役目でした。派手ではないし、終わってもほめられることが少ないからです。
ある週、その当番がまわってきたのは、ネハマという女の子でした。友だちは言いました。
「つまんない役だね」
「どうせ掃くだけでしょ」
でもネハマは、「せっかくだからちゃんとやろう」と思いました。朝早く広場へ行き、石畳のすきままでよく見ながら掃き始めます。
すると、ただ落ち葉があるだけではありませんでした。市場の端にはほどけたひも、噴水のそばには転がった針金、ベンチの下には小さなボタン。どれも、だれかが気づかなければ困りごとになるものばかりです。
ネハマは、それらを一つずつ拾って、広場の管理小屋にある木箱へ分けて入れました。「落とし物」「危ないもの」「直したほうがいいもの」と書いた紙まで貼りました。
昼ごろ、一人の男の人が慌ててやってきました。
「荷車のひもがない! どこかで落とした!」
ネハマはすぐ木箱を開けました。
「これですか?」
男の人は目を丸くしました。
「そうだ! これがないと、帰りに荷がくずれるところだった」
午後には、おばあさんが上着のボタンを探しに来ました。夕方には、靴屋のおじさんが「誰かが踏んだら危ない針金がなくなってる」と安心した顔をしました。
それを見て、最初は当番をばかにしていた友だちも、だんだん黙ってきました。ネハマはただ掃いていただけではなく、広場を使う人たちが困らないようにしていたのです。
週の終わりに、町長が言いました。
「ほうき当番をしてくれたネハマのおかげで、今週は落とし物が多く戻り、けがのもとになるものも減ったそうです」
ネハマは少し照れました。
「でも、私は見つけたものを拾っただけです」
すると学びの家の先生が言いました。
「それがむずかしいのです。多くの人は見ていても見逃します。あなたは『自分の仕事は掃くことだけ』と決めず、『広場が気持ちよく使えるようにすること』まで見ていたのですね」
その言葉で、子どもたちははっとしました。同じ仕事でも、何を見るかで中身が変わるのです。
次の週から、ほうき当番は少し人気が出ました。みんな、掃くことの先にある役目を知ったからでした。
目立たない仕事は、つまらなく見えることがあります。でも、そういう仕事を丁寧にする人がいるから、みんなの毎日は安全で気持ちよくなります。落とし物を見つけたネハマは、それだけでなく、仕事の中にひそむ本当の意味も見つけていたのです。
その後、ネハマは当番でない日でも、広場を通ると少しだけ足元を見るようになりました。だれかがすべりそうなものはないか、小さな子が困っていないか、前より自然に気づけるようになったのです。一度「見る目」を持つと、町の景色まで違って見えるのでした。
先生は子どもたちに言いました。
「責任ある仕事とは、えらそうな仕事のことではありません。その場を少しよくするために、自分の目と手をちゃんと使うことです」
その言葉を聞いて、ほうき当番は『はずれの役』ではなく、『広場を守る役』として見られるようになっていきました。
ネハマは、落とし物箱のふたを閉じながら思いました。大きなことをしたわけではない。それでも、見つけて、拾って、分けておいたことで、困らずにすんだ人がいた。そう考えると、ほうき当番の朝が少し誇らしく感じられました。
次の月曜日、今度は別の子がほうき当番になりました。けれどその子は前のようにいやそうな顔をしません。ネハマが作った木箱をのぞきこみながら、「危ないものはここ、落とし物はここでいいんだよね」と確かめました。ネハマもいっしょに広場を歩き、石畳のすきまや噴水のまわりなど、よく見る場所を教えました。
すると朝のうちに、小さな釘が一つ見つかりました。もし誰かが踏んでいたら、足をけがしていたかもしれません。当番の子は釘を箱に入れると、少し目を輝かせて言いました。
「ほんとだ。ただ掃くだけじゃなかったんだ」
ネハマは笑ってうなずきました。見えるごみだけでなく、見えにくい困りごとまで拾うのが、この仕事の役目だともう知っていたからです。
その週の終わりには、広場のベンチのゆるんだ板まで直されました。町の大工さんが、「子どもたちがちゃんと札を入れてくれたから助かったよ」と言ってくれたのです。友だちはその言葉を聞いて、ほうき当番が朝の掃除ではなく、広場を気持ちよく使えるように整える仕事なのだとますます分かってきました。
ネハマは家に帰る道で、いつもの広場を振り返りました。人が安心して歩けるのは、だれかが先に小さな危ないものを拾っているからです。目立たないけれど、なくなるとすぐ困る役目が、町にはたくさんあるのだとネハマは自分の目で見つけていたのでした。
その後は、広場を通る大人たちまで、ときどき足元を見るようになりました。落ちたひもを拾って箱に入れる人、倒れかけたかごを端へ寄せる人、ぬれた石畳を見つけて「ここ、気をつけて」と声をかける人もいます。ネハマが一人で始めた見方が、少しずつ町じゅうへ広がっていったのです。
ある朝、町長は広場の入口に小さな札をつけました。
「ここはみんなの広場。気づいた人が、みんなの守り手」
ネハマはその札を見て、胸がじんわりしました。ほうき当番の朝に自分が見つけたことが、町の言葉になっていたからです。
広場を歩くたび、ネハマは前より少しだけ顔を上げ、少しだけ足元も見るようになりました。だれかが困る前に気づけることがあると知ったからです。町を守る仕事は特別な人だけのものではなく、気づいた人から始められるのだと、ネハマは毎朝のほうきで学んでいました。
1) ネハマは、ただ掃くだけでなく、どんなことまで見ていたのかな?
2) 目立たない仕事が大切なのは、どうしてだと思う?
3) あなたの身のまわりにも、ていねいにするとみんなが助かる仕事はあるかな?
この物語は、目立たない役目を大切にする知恵を伝えるユダヤの教えをもとに、子ども向けに再話したものです。
もとになった話
小さな責任を誠実に果たすことの価値を教える、ユダヤの知恵の教えより



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