・小さな手間を先にかけると、あとで大きな困りごとが減る
・楽をするとは、今だけ楽なこととは限らない
・目の前のめんどうを引き受ける知恵が、未来を助ける
むかしむかし、広い畑を持つ農家で、二人の若者が働いていました。ルベンは「今が楽ならそれでいい」と考えるタイプ。マルコは「あとで困らないように先にしておこう」と考えるタイプでした。
ある暑い日、主人は二人に言いました。
「昼までに畑の見回りをしてきなさい。水路がつまっていないか、柵がゆるんでいないか、よく見てくるんだよ」
二人は畑へ向かいました。しばらくすると、マルコは水路のはしに草がたまっているのを見つけました。少し掃除すれば水は流れますが、しゃがんで手を汚さなければなりません。
マルコは立ち止まり、草を取りのぞきました。
ところがルベンは、笑って言いました。
「そんなの、あとで誰かがやるさ。今は暑いんだから、早く木陰へ行こう」
少し先では、柵のひもがゆるんでいました。マルコはそこも結び直しましたが、ルベンはもう座りこんで水を飲んでいます。
「お前はまじめすぎるよ。見回りってのは、見るだけでいいんだ」
昼になって戻ると、ルベンは得意そうに言いました。
「ぼくのほうが早く終わりました」
主人は何も言わず、午後も畑へ行くことにしました。すると、水路の草を取らなかった場所では水があふれ、ぬかるみができていました。しかも柵のゆるんでいたところから子ヤギが入り込み、若い芽を食べていたのです。
主人は二人に言いました。
「さあ、ここを直しなさい」
ルベンは目を見開きました。草を少し取るだけだったはずの水路は、今や泥だらけです。柵も、ゆるんだひもを結ぶだけではすまず、杭を打ち直さなければなりません。
マルコが朝のうちに手を入れていた場所は、何の問題もなくきれいなままでした。
夕方、くたくたになったルベンはつぶやきました。
「朝のぼくは楽をしたつもりだった。でも、ぜんぜん楽じゃなかった」
主人は笑って言いました。
「ほんとうの楽とは、困りごとを先へ送ることじゃない。先に少し手をかけて、あとを軽くすることだよ」
その夜、二人は同じパンを食べましたが、感じ方はずいぶん違いました。マルコは静かに休めましたが、ルベンは泥だらけの一日を思い出してため息をついていました。
次の日から、ルベンは見回りの途中で立ち止まることを覚えました。草が少し詰まっていたらその場で取る。ひもがゆるんでいたら結び直す。ほんの少しの手間で、あとが驚くほど軽くなることを知ったからです。
めんどうなことを先にするのは、損に見えるかもしれません。でも、小さな手間を先に引き受ける人は、あとで大きな困りごとに追いかけられません。今日の少しのがんばりが、明日の大きな安心になることがあるのです。
数日後、主人は二人を別の畑へ連れていきました。そこでは、前の週に見回った水路がすっきり流れ、柵もぴんと張られていました。ルベンはその様子を見て、「何も起きていないように見えるのが、一番よくできているってことなんだ」とつぶやきました。大きな問題が起きないのは、前もって誰かが少しずつ手をかけているからだと分かったのです。
主人はうれしそうに笑いました。
「そうだよ。世の中には、上手にやったからこそ目立たない仕事がたくさんある。見回りもその一つだ」
ルベンはそれを聞いて、以前はつまらないと思っていた仕事が、少しちがって見えるようになりました。
それからは、木陰で休む前に、二人で「今直しておいたほうがいいところはないか」と声をかけ合うようになったそうです。少し先のことを見る目が、二人の働き方を変えていったのでした。
ある朝、ルベンは見回りの途中で、井戸のふたが少し傾いているのを見つけました。直すには手間がかかりそうで、一瞬そのまま通りすぎたくなりました。けれど前の泥だらけの一日を思い出し、マルコを呼んで一緒にふたを持ち上げ、石をはさみ直しました。昼ごろになると、子どもたちがその井戸のそばで水をくんでいました。ルベンは何も起きなかった景色を見て、胸の中で小さくうなずきました。
また別の日には、納屋の戸が少しきしんでいました。前なら「あとで誰かがやる」と言ったかもしれません。けれど今のルベンは、油を取りに戻って戸のちょうつがいにさしました。その日の夕方、重い袋を持った女の人が楽に戸を開けられるのを見て、ルベンははじめて「何も困らなかった一日」をうれしいと思いました。
主人はそんなルベンの様子を見て、夕食のときに言いました。
「畑を守る人は、畑だけでなく、そこで働く人の明日も守っているんだよ」
ルベンは照れくさそうに笑いました。目立つ仕事をしたわけではないのに、前よりずっと働いた気持ちになれたからです。
夏が近づくころには、ルベンは朝いちばんに道具小屋をのぞき、縄やくわの柄にゆるみがないかも確かめるようになりました。こわれてから直すより、こわれる前に気づくほうがずっと楽だと知ったからです。マルコはそんなルベンを見て、「このごろは木陰へ急がなくなったな」と笑いました。ルベンも笑い返して、「そのほうが、あとでゆっくり休めるからね」と答えました。
ある昼下がり、主人が別の若者に見回りを頼むと、その若者はいやそうな顔をしました。するとルベンが自分から言いました。
「見回りって、ただ歩くだけじゃないんだ。あとで困らないように、先に助ける仕事なんだよ」
その言葉には、前のルベンなら入っていなかった重みがありました。自分で泥だらけになって覚えた知恵だったからです。
見回りの仕事は、終わったときに拍手される仕事ではありません。でも、何も困りごとが起きなかった日には、その見えない働きがちゃんとありました。人が安心して休める一日は、誰かが先に少し動いてくれた一日でもあるのです。ルベンは、その静かな働きの価値をようやく知ったのでした。
そのころにはルベンも、見回りを終えて何も起きていない畑を見るのが好きになっていました。前ならつまらないと思った静かな景色が、いまでは「ちゃんと手をかけたしるし」に見えたからです。
1) ルベンは、何をして「本当の楽」が分かったのかな?
2) 先に少し手をかけると、あとでどんなよいことがありそう?
3) あなたの毎日の中にも、「今やるとあとが楽」なことはある?
この物語は、先延ばしをしない知恵と勤勉さを伝えるユダヤの教えをもとに、子ども向けに再話したものです。
もとになった話
先に備えることの大切さを教える、ユダヤの学びの伝統より



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