・自分の役割を大切にし、お互いの得意なことを認め合う
・「目に見える場所」だけが大事なのではなく、それぞれの場所で支え合っている
・知恵や「見る力」がないままリーダーになると、みんなが困ってしまう
むかしむかし、ある森に一匹の大きなヘビが住んでいました。このヘビは、頭からしっぽまでとても長くて立派でしたが、ある日、とんでもないことが起きました。
なんと、ヘビの「しっぽ」が突然、しゃべりだしたのです。
「おい、頭! ちょっと話を聞いてくれ。私はもう、お前の後ろについて歩くのはこりごりなんだ!」
ヘビの「頭」はびっくりして振り返りました。自分のしっぽが文句を言うなんて、生まれて初めてのことだったからです。
「どうしたんだい、しっぽ。急にそんなことを言い出すなんて」
しっぽはプンプンと怒ったように地面を叩いて言いました。
「だってそうだろう? お前はいつも一番前を歩いて、きれいな景色を見て、おいしいものを一番に食べる。でも私はどうだ? いつもお前の後ろで、砂埃(すなぼこり)をかぶって、地面をずるずると引きずられているだけだ。こんなの不公平じゃないか!」
頭は困った顔をして答えました。
「でもね、しっぽ。私が前を歩くのは、私には『目』があるからだよ。危ない崖(がけ)がないか、敵がいないかを見張って、安全な道を選んでいるんだ。それに、『耳』で周りの音を聞いて、『脳』でどっちに行くべきか考えている。私たちが無事に生きていけるのは、私が前でしっかり見ているからなんだよ」
ところが、しっぽは聞き入れません。
「そんなの言い訳だ! 私だって、お前と同じヘビの体の一部じゃないか。私にだって、リーダーになる権利があるはずだ。今日から交代だ。私、しっぽが前を歩いて、お前を引っ張っていくことにするぞ!」
頭は何度もなだめましたが、しっぽは「嫌だ嫌だ! 交代しないなら一歩も動かないぞ!」と頑(かたくな)に地面に張り付いてしまいました。一つの体が二つの方向に引っ張り合っていては、ヘビは前に進むことができません。
ついに頭は根負けしてしまいました。
「……分かったよ、しっぽ。それほど言うなら、一度だけ交代してみよう。でも、気をつけるんだよ」
「やったー! ついに私の時代が来たぞ!」
しっぽは大喜びです。さっそく体を反対に向けて、しっぽが先頭になって進み始めました。頭は後ろに引きずられる形になりました。
しっぽは得意げにグングン進みます。
「ほら見ろ! 私だってちゃんと歩けるじゃないか。あー、前を歩くのはなんて気持ちがいいんだろう!」
しかし、しっぽには「目」がありません。どこに何があるか、全く分からないのです。
ガツン!
「痛いっ!」
しっぽは、目の前にあった大きな岩に真っ正面からぶつかってしまいました。
「大丈夫かい、しっぽ?」と頭が心配しましたが、しっぽは強がりました。
「な、なんでもないぞ! ちょっとしたアクシデントだ。次こそ見ていろ!」
しっぽはまた進み始めましたが、今度は泥んこの深い水たまりにドボン!と落ちてしまいました。
「うわっ、冷たい! 息が苦しい! どっちが逃げ道だ!?」
しっぽは右も左も分からず、泥の中でジタバタするばかりです。後ろにいた頭が必死に体をくねらせて、ようやく陸地へと引っ張り上げました。
しっぽは泥だらけになって、ゼェゼェと息を切らしていました。でも、まだ諦めません。
「……まだまだ! 私の本当の実力はこれからだ!」
しっぽはフラフラになりながら、また走り出しました。すると今度は、トゲだらけのアザミの茂みの中に突っ込んでしまいました。
「ギャーッ! 痛い、痛い! 全身にトゲが刺さる!」
しっぽは痛くてたまりませんでしたが、トゲのない場所がどこなのか見えません。動けば動くほど、鋭いトゲが体に深く刺さっていきます。後ろについている頭も、トゲだらけになってしまいました。
「しっぽ、もうやめるんだ。この先には、もっと恐ろしい火のついた穴があるぞ! 私には見えるんだ。このまま進めば、二人とも焼け死んでしまう!」
頭が必死に叫びましたが、しっぽはパニックになっていて、止まることができません。
「うるさい! 私がリーダーなんだ! 私の言う通りに……あ、あああーっ!」
しっぽはついに、崖から真っ逆さまに落ちそうになりました。その先には、猟師が仕掛けた深い罠の穴が開いていました。
「助けて! 頭、助けてくれー!」
寸前のところで、頭が岩にガシッとしがみつき、しっぽを必死に引き戻しました。
ようやく安全な草むらにたどり着いたとき、しっぽはもう、クタクタで一歩も動けなくなっていました。
しっぽは、小さな声で、恥ずかしそうに言いました。
「……ごめんよ、頭。私がバカだった。私には、道を見つける目も、危険を察知する耳もなかった。ただ『目立ちたい』とか『一番になりたい』という気持ちだけで、みんなを危険にしてしまったんだね」
頭は優しく答えました。
「分かってくれたかい、しっぽ。君が後ろでしっかりと体を支えて、力強く地面を蹴ってくれるから、私は前を向いて進むことができるんだ。君がいなければ、私は一歩も前に進めない。私たちは、二人で一つなんだよ」
それからというもの、ヘビのしっぽが「前を歩きたい」と言うことは二度とありませんでした。
頭は知恵を使って安全な道を選び、しっぽは力強く体を押し出す。
ヘビは、自分の体のすべての部分に感謝しながら、今日も森の中をスイスイと、仲良く進んでいったということです。
このお話は、私たちに「自分の役割」の大切さを教えてくれます。
学校や家族、チームの中で、誰かがリーダーになり、誰かがそれを支える役になります。目立つ場所が一番偉いわけではなく、それぞれの場所で、自分にしかできない仕事を一生懸命にやることが、全体を一番幸せにするのです。
もし、みんなが「自分だけがリーダーになりたい」と言って、周りを見ずに突き進んでしまったら……このヘビのように、みんなでトゲの茂みに突っ込んでしまうかもしれませんね。
1) しっぽが「リーダーになりたい」と言ったのは、どんな気持ちからだったと思う?
2) しっぽが先頭になったとき、どんな困ったことが起きたかな?
3) あなたの体や、あなたの周りのグループの中で、「地味だけど、すごく大事な役割」をしているものや人は誰かな?



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