・子どもは大人の「言葉」ではなく、その「行動」を見て育つ
・家族を大切にすることは、巡り巡って未来の自分を助けることになる
・「思いやり」は、家庭の中で受け継がれる一番の宝物である
むかしむかし、ある街に、大きな屋敷を構える裕福な商人の一家が住んでいました。
そこには、働き盛りの主人ヤコブと、その妻、そして元気いっぱいで賢い八歳の息子イサクが暮らしていました。そしてもう一人、ヤコブのお父さんである、年老いたおじいちゃんも一緒に住んでいました。
おじいちゃんは、若い頃はこの家を大きくした立派な商人でしたが、今はもうすっかり年をとり、目も見えにくく、手足も震えるようになっていました。
ある日の夕食のときのことです。
おじいちゃんは震える手でスープを飲もうとしましたが、スプーンを落としてしまい、お気に入りのテーブルクロスを汚してしまいました。さらに、ガチャンと音を立てて、高価な陶器のお皿を割ってしまったのです。
主人のヤコブは、それを見てイライラして叫びました。
「お父さん、またですか! これで三回目ですよ。せっかくの食事が台無しだ。掃除をする身にもなってください!」
おじいちゃんは小さくなって、「すまない、すまない……」と謝るばかりでした。
それからというもの、ヤコブはおじいちゃんを家族の食卓(しょくたく)から遠ざけるようになりました。部屋の隅にある小さな木の机で、一人で食事をさせるようにしたのです。さらに、「割らないように」と、おじいちゃんだけ安っぽい「木の器」で食事を出すことに決めました。
息子のイサクは、その様子をじっと黙って見つめていました。
冬が近づき、夜の風が冷たくなってきたある日のことです。
ヤコブはおじいちゃんの部屋があまりに寒そうだと思い、息子のイサクに言いました。
「イサクよ、物置に行って、一番古い『毛布』を一枚持ってきなさい。それをおじいちゃんにあげて、屋根裏の部屋へ移動してもらうことにしよう。あそこなら、少しくらい汚しても気にならないからな」
イサクは「分かりました、お父さん」と言って、物置へと向かいました。
しばらくして、イサクが戻ってきました。しかし、その手には大きなハサミと、**「半分に切り裂かれた毛布」**が握られていました。
ヤコブは驚いて尋ねました。
「これはいったいどういうことだ、イサク! どうしておじいちゃんの毛布を半分に切ってしまったんだ? これじゃあ、おじいちゃんの体がはみ出して寒いじゃないか!」
すると、イサクはとても無邪気な、澄んだ瞳で父親を見上げてこう答えました。
「お父さん、心配しないで。ちゃんとおじいちゃんには、この半分の毛布を渡すよ。これだけでも十分あったかいって、おじいちゃんなら喜んでくれると思うな」
ヤコブは首を傾げました。
「それなら、残りの半分の毛布はどうするんだ? 捨ててしまうのか?」
イサクはニッコリと笑って、大切そうに残りの半分を抱きしめました。
「ううん、捨てないよ。この残りの半分は、ずっと大切にしまっておくんだ。いつかお父さんがおじいちゃんみたいに年をとって、僕がお父さんを屋根裏部屋に送るときに、お父さんにあげるためにね!」
「……!」
ヤコブは、まるで頭を金槌(かなづち)で叩かれたような衝撃を受けました。
目の前の小さな息子は、意地悪で言ったのではありません。
「お父さんがおじいちゃんにしていることは、いつか僕がお父さんにすることなんだ」と、当たり前のルールとして学んでいただけだったのです。
ヤコブの頭の中に、自分が年をとり、震える手で木の器を持ち、屋根裏部屋でたった一人、息子から「半分に切られた毛布」を渡される姿が浮かびました。
その時、自分はどんなに悲しく、寂しい思いをするだろうか……。
ヤコブはたまらなくなり、すぐに屋根裏へ行こうとしていたおじいちゃんのもとへ駆け寄りました。そして、おじいちゃんの震える手をしっかりと握り、涙を流して謝りました。
「お父さん、本当にごめんなさい! 私はとんでもない間違いをしていました。あなたは、この家の誰よりも大切な宝物です。さあ、一緒に温かい食卓へ戻りましょう」
ヤコブはおじいちゃんを一番上等の席に座らせ、自分たちの結婚祝いで使った最高の陶器のお皿で、一番おいしい料理を運びました。それからは、おじいちゃんがスープをこぼしても、皿を割っても、ヤコブが怒ることは二度とありませんでした。むしろ、「お父さんが元気な証拠ですよ」と笑って片付けるようになったのです。
それを見ていたイサクは、半分に切った毛布をそっと繋ぎ合わせました。
家族の心も、一枚の大きな、温かい毛布のように繋がったのでした。
このお話は、私たちに「家族の関係」の魔法を教えてくれます。
子どもは、大人が言う「立派な教え」よりも、大人が家族にどう接しているかという「後ろ姿」を一番よく見ています。
あなたが今日、お父さんやお母さん、そしておじいちゃんやおばあちゃんに向ける優しい笑顔は、そのまま将来、あなたの子どもからあなたに贈られる笑顔になるのです。
家族を大切にする知恵は、自分の未来を温めるための、一番素敵な準備なのかもしれませんね。
1) イサクが「残りの半分の毛布」をしまっておこうとしたのは、どうしてかな?
2) お父さんのヤコブは、イサクの言葉を聞いて、どうして泣いてしまったんだと思う?
3) あなたのお家の中で、みんなが「温かい気持ち」になれるような、素敵なルールを作るとしたらどんなものがいい?



コメント