大切な人との時間は、いつか宝物になる。
話さなかったことの中にも、深い愛情がかくれているかもしれないよ。
ユウタには、だいすきなおじいちゃんがいました。
「じいじ」と呼ばれていたその人は、小さな町の木工職人で、しずかな笑顔と、ごつごつした手をしていました。
話す言葉は少なかったけれど、ユウタはじいじのそばにいると、なんだかとても落ち着きました。
じいじの家には、ふしぎな木のイスがありました。
背もたれが高くて、ひじかけのところが少しすり減っていて、座るとぎしぎし音がしました。
そのイスにじいじが座っているときは、なんだか時間がゆっくりになるような気がしました。
ある夏の日、ユウタはいつものように、じいじの家に泊まりにきていました。
でもその日は、ちょっとだけちがいました。
じいじが急に、「ユウタ、ひとつお願いがある」と言ったのです。
「このイスを、こんどはお前がなおしてくれないか。わしの仕事道具はぜんぶ納屋にある。」
ユウタはびっくりしました。
「でもぼく、そんなのやったことないよ!」
「だから、やってみればいいんだ。」
じいじの言い方は、いつもとおなじようにおだやかでしたが、その目はまっすぐでした。
次の日から、ユウタは木のイスの修理にとりかかりました。
ひびの入ったところにやすりをかけ、ぐらぐらする脚をなおし、ひじかけをあたらしく削りなおしました。
その間、じいじはなにも口を出さず、ただイスの横で静かに見守っていました。
ふしぎなことに、ユウタがイスと向き合っていると、いろんな記憶がよみがえってきました。
小さいころ、じいじのひざの上で寝てしまったこと。
学校で泣いて帰ってきたとき、なにも言わずにお茶をいれてくれたこと。
じいじは、言葉ではなく行動で、ずっとユウタを見守ってくれていたんだ——そんなことを思いながら、ユウタは木の粉だらけになってイスと向き合いました。
やっと修理が終わったころ、じいじの体調が急にわるくなり、入院することになりました。
病院のベッドの上で、じいじは弱い声でユウタに言いました。
「イスは、おまえの部屋に持っていきなさい。」
その数日後、じいじは静かに、天に旅立ちました。
ユウタが家に帰ると、修理した木のイスの座面のうらに、小さな封筒がはりつけられているのを見つけました。
中には、じいじからの手紙が入っていました。
「ユウタへ
このイスは、わしが若いころに作ったものだ。おまえの父さんが生まれたときに作った。
そして今、それをおまえがなおしてくれたことが、わしには何よりもうれしい。人は、ものをなおすことで、気持ちもなおせることがある。
つらい日があったときは、このイスにすわって、しずかに心を見つめてごらん。きっと、おまえなら、だいじょうぶだ。
愛をこめて
じいじより」
ユウタは、イスをぎゅっとだきしめました。
そして、窓の外にひろがる夕空を見ながら、心の中でつぶやきました。
「ありがとう、じいじ。ちゃんと受け取ったよ。」
それからというもの、ユウタの部屋にはいつも木のイスがあります。
友だちとけんかした日、うまくいかなくて落ちこんだ日、
ユウタはそのイスにすわって、目を閉じて、じいじの声を思い出します。
「きっと、おまえなら、だいじょうぶだ。」
じいじは、なぜユウタに木のイスをなおしてほしかったのでしょう?
もし自分が大切な人に、なにかを残すとしたら、どんなふうに伝えたいですか?



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