賢い商人と欲張りな宿屋の主人

知恵と機転
【お話のポイント】
困難に直面したとき、怒りや悲しみに身を任せるのではなく、冷静に知恵を絞ることが、問題を解決する一番の鍵となります。

遠い昔、イスラエルの地を旅する一人の賢い商人がいました。彼の名前はイサクといい、長い砂漠の旅を経て、活気あふれるエルサレムの街へとたどり着きました。

夕暮れ時の街は、市場で売られるシナモンやクミンの香ばしい匂いに包まれ、石畳の道にはロバの足音と人々の賑やかな話し声が響き渡っていました。イサクはとても疲れており、まずは今夜の宿を探すことにしました。

彼が見つけたのは、街の入り口近くにある古びた宿屋でした。宿の主人は一見愛想が良かったのですが、その瞳の奥にはギラリとした欲深い光が宿っていました。

イサクは商売で得たばかりの百枚の金貨を持っていました。それは彼にとって全財産であり、盗まれるわけにはいきません。

彼は慎重に周りを見渡し、誰もいないことを確かめてから、部屋の隅にある古い木の床板を少しだけ持ち上げました。そして、その下の土の中に大切な金貨の袋を埋めたのです。

しかし、欲深い宿屋の主人は、壁の小さな穴からその様子をすべて見ていました。商人がぐっすりと眠りについた真夜中、主人は忍び足で部屋に入り、金貨をすべて盗み出してしまいました。

翌朝、目を覚ましたイサクが床下を確認すると、そこには何もありませんでした。イサクは一瞬、心臓が止まるほど驚き、目の前が真っ暗になりました。

しかし、彼は決して慌てませんでした。ここで騒ぎ立てても、証拠がないと言い逃れされるだけだと悟ったのです。

イサクは深く息を吸い込み、冷たい水で顔を洗うと、落ち着いて一つの作戦を立てました。彼はあえて明るい顔で宿屋の主人のところへ向かいました。

「おはよう、主人。実は相談したいことがあるんだ」

イサクは主人の目を見て、穏やかに話し始めました。

「私はさらに大きな商売を成功させてね、明日にはここへ千枚の金貨が届く予定なんだ。それを持って旅を続けるのは危ないと思っている」

主人の耳がピクリと動きました。千枚の金貨という言葉に、彼の心は激しく揺れ動きました。

「そこでだ。今床下に隠している百枚の金貨と一緒に、その千枚も同じ場所に隠しておこうと思うのだが、君はこの宿が十分に安全だと思うかい?」

主人は必死に考えました。今、盗んだ百枚を持って逃げるよりも、一度それを返して商人を安心させ、明日の千枚を合わせて盗む方がずっと得ではないか。

「もちろんですとも! 私の宿は世界一安全ですよ。昨日の場所も、私がしっかり見守っていますから、どうぞ安心してお隠しなさい」

主人はそう答えると、商人が外出している隙に、慌てて盗んだ百枚の金貨を元の床下に戻しました。すべては、さらに大きな獲物を手に入れるための罠だったのです。

しばらくして戻ってきたイサクは、床下を確認しました。そこには、取り戻したかった百枚の金貨がちゃんと戻っていました。

イサクはすぐに金貨を懐にしまうと、荷物をまとめて宿を飛び出しました。そして、あっけに取られている主人に向かってこう言いました。

「ありがとう、主人。私は今、大切な教訓を学んだよ。欲張りな人間は、目の前の小さな得を返してでも、もっと大きなものを奪おうとする。だが、知恵を使えば、その欲深ささえも味方にできるのだね」

商人はそのまま足早に去っていきました。残された宿屋の主人は、戻ってくるはずのない千枚の金貨を待ち続け、自分の愚かさを後悔することになったのでした。

💭 いっしょに考えてみよう
さて、ここでみんなに質問だよ。もし君が商人の立場だったら、金貨を盗まれたと気づいたとき、どんな気持ちになるかな? そして、怒鳴ったり泣いたりせずに、この商人のように冷静に知恵を絞ることはできるかな?

コメント

タイトルとURLをコピーしました