物事の表面だけを見て悲しんだり判断したりせず、その裏に隠された真の意図を探る知恵を持ちましょう。本当の知恵は困難を解決する鍵となります。
昔々、イスラエルの地に、一人の年老いた裕福な商人が住んでいました。
彼は多くの財産を持っていましたが、たった一人の息子は遠く離れた学問の都で熱心に勉強に励んでいました。
ある時、商人は自分が重い病にかかり、もう長くは生きられないことを悟りました。
彼は息子の将来を心配しましたが、自分が死んだ後、遠くにいる息子が戻ってくる前に、欲の深い奉公人たちが財産をすべて持ち逃げしてしまうのではないかと恐れました。
そこで商人は、一通の不思議な遺言書を書くことにしました。
その遺言書にはこう記されていました。
「私の全財産は、忠実なしもべであるヨセフに譲ることにする。」
「ただし、遠くにいる私の息子には、全財産の中からたった一つだけ、自分の好きなものを選んで受け取る権利を与えるものとする。」
商人が亡くなると、ヨセフは大喜びしました。
彼は自分がすべての富を手に入れたと思い、すぐに息子のいる町へ使いを出し、主人が亡くなったことと遺言の内容を伝えました。
知らせを聞いた息子は、深い悲しみに暮れるとともに、父が自分に何も残してくれなかったことに大きなショックを受けました。
「あんなに私を愛してくれた父様が、なぜ全財産をヨセフに譲ってしまったのだろうか。」
息子は悩み、近くに住んでいた賢いラビのもとを訪ねて、この不思議な遺言について相談しました。
ラビは遺言書をじっくりと読み、静かに微笑んで言いました。
「心配することはありませんよ。あなたの父上は、この上なく賢いお方だったようです。」
「この遺言には、あなたへの深い愛情と、財産を守るための素晴らしい知恵が隠されているのですよ。」
息子は首をかしげましたが、ラビに教えられた通りに行動することに決めました。
四十九日の喪が明けた頃、息子は父の屋敷に戻り、親戚や近所の人々の前で遺言を執行することになりました。
欲深いしもべのヨセフは、鼻を高くして得意げに言いました。
「坊ちゃん、遺言の通り、私はこの屋敷も、金銀財宝も、家畜もすべて手に入れました。」
「さあ、あなたは約束通り、この膨大な財産の中から、たった一つだけ好きなものを選んで持っていきなさい。」
周りの人々は息子を不憫に思い、同情の視線を送りました。
しかし、息子は落ち着いた様子で、ヨセフの肩に手を置いてこう宣言しました。
「私は、父の遺言に従い、たった一つのものを選びます。」
「私が選ぶのは、しもべであるあなた、ヨセフ自身です。」
その瞬間、その場にいた人々は驚き、次に地響きのような大きな歓声を上げました。
ヨセフは顔を真っ青にして、その場にへなへなと座り込んでしまいました。
当時の法律では、「しもべが所有するものは、すべてその主人のものである」という厳格な決まりがあったのです。
つまり、息子がしもべであるヨセフを「自分のもの」として選んだことで、ヨセフが相続したはずのすべての財産は、自動的に新しい主人となった息子のものになったのでした。
父は、息子が戻るまでの間、欲深いしもべに財産を盗ませないために、あえてしもべを「仮の相続人」にしたのです。
もし息子を直接の相続人に指定していれば、息子が不在の間にしもべが財産をまとめて逃げてしまったかもしれません。
しかし、「しもべにすべてを譲る」と書くことで、しもべは自分の財産だと思い込んで大切に守り、息子が帰ってくるのを今か今かと待ち構えることになったのです。
息子は父の深い知恵と、自分を信じてくれた愛に気づき、涙を流して感謝しました。
そして、改心したヨセフを許し、その後も共に力を合わせて家をさらに繁栄させました。
目に見える言葉の裏側に隠された真実を見抜く知恵が、家族の絆と大切な財産を救ったのでした。
お父さんは、どうして直接息子に財産を譲ると書かなかったのだと思いますか?



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