鏡の壁と消えた金貨 〜本当の努力の見つけ方〜

鏡の壁と消えた金貨 〜本当の努力の見つけ方〜 正義と親切
【今日のお話のポイント】
・本当の努力は、誰が見ていなくても自分を裏切らない
・ズルをして手に入れたものは、いつか消えてしまう
・「自分の心」は鏡のようなもの。行いがそのまま自分に返ってくる

むかしむかし、ある国にとても立派な宮殿を建てた王様がいました。王様は宮殿の最後に、一番大きな広間を美しく飾ることにしました。

王様は国中で一番腕がいいと言われる二人の絵描きを呼び寄せました。一人は、真面目でコツコツと働く「エイモス」。もう一人は、口が上手くて要領がいい「ボラス」という男でした。

王様は二人にこう言いました。
「この広いホールの壁を、半分ずつに分けて飾りなさい。真ん中に大きなカーテンを引き、お互いの仕事が見えないようにする。三ヶ月の時間をやろう。最も素晴らしい仕事をした方には、一生使い切れないほどの金貨を褒美(ほうび)として取らせよう」

エイモスとボラスは、それぞれ壁の前に立ちました。真ん中には厚いカーテンが引かれ、相手が何をしているか全く分かりません。

真面目なエイモスは、すぐに仕事に取りかかりました。
彼は朝早くから夜遅くまで、一度も休むことなく筆を動かしました。美しい青空、生き生きとした動物たち、色鮮やかな花々……。エイモスは、自分の心にある「美しい世界」を壁に写し出すために、一筆一筆、魂を込めて描きました。あまりに一生懸命だったので、彼の服は絵の具で汚れ、手はマメだらけになりましたが、エイモスは幸せでした。「王様に喜んでもらいたい。そして、この壁を見た人が元気になれるような絵を描きたい」そう思っていたからです。

一方、要領のいいボラスはどうしていたでしょう。
彼は最初のうちこそ筆を持っていましたが、すぐに飽きてしまいました。
「ふん、あんなに汗を流して描くなんて馬鹿げている。どうせ王様が見るのは三ヶ月後だ。もっと楽をして、エイモスよりすごいと思わせる方法はないかな……」

ボラスは毎日、豪華な食事をしたり、昼寝をしたりして過ごしました。エイモスが隣で壁を叩いたり筆を走らせたりする音を聞きながら、「一生懸命やっているな、お疲れさん」と心の中で笑っていたのです。

約束の日まで、あと三日となりました。
エイモスの壁には、まるで本物の自然がそこにあるかのような、奇跡のように美しい絵が完成していました。
ところが、ボラスの壁は真っ白なままでした。しかし、ボラスは少しも慌てていませんでした。彼は筆の代わりに、大量の「磨き粉」と「柔らかい布」を取り出しました。

ボラスは、真っ白な壁をひたすら磨き始めました。
「ゴシゴシ、キュッキュッ……。もっとだ、もっと輝かせるんだ」
彼は絵を描く代わりに、壁を鏡のようにピカピカに磨き上げたのです。三日目の晩、ボラスの担当した壁は、自分の顔がはっきりと映るほど、滑らかな鏡のようになりました。

そして、ついに約束の三ヶ月が経ちました。
王様がたくさんの家来を引き連れて、大広間にやってきました。

「さあ、カーテンを開けなさい!」

まず、エイモスの側のカーテンが開けられました。
そこには、黄金色の太陽、風に揺れる麦の穂、今にも飛び出してきそうな小鳥たちが描かれていました。あまりの美しさに、王様も家来たちも、思わず息を呑みました。
「おお……。これは素晴らしい。まるで壁の中に別の世界が広がっているようだ。エイモスよ、お前の努力は実に見事だ」

次に、ボラスの側のカーテンが開けられました。
すると、家来たちはもっと驚きました。
「うわあ! こちらにもエイモスの絵と同じくらい素晴らしい景色が広がっている! しかも、こちらの方が光り輝いていて、奥行きがあるぞ!」

それもそのはずです。ボラスが壁を鏡にしていたので、隣にあるエイモスの美しい絵が、そっくりそのまま映し出されていたのです。ボラスは得意げに鼻を高くして言いました。

「王様、いかがでしょうか。私はエイモスの美しさを取り入れつつ、さらにそれを輝かせる『光の壁』を作りました。どちらが素晴らしいかは、一目瞭然でしょう?」

王様は二人の壁をじっくりと見比べました。そして、静かにうなずきました。
「なるほど、どちらも素晴らしい。エイモスは自分の力で美しさを生み出し、ボラスはそれを輝かせた。では、約束通り、褒美を取らせよう」

王様は、大きな金の箱を持ってこさせました。
箱の中には、キラキラと輝く金貨が山のように入っていました。王様はまず、エイモスの壁の前に立ち、金貨を床にバラバラと撒きました。
「エイモスよ、これが君の努力への正当な報酬だ」
エイモスは深く頭を下げ、感謝して金貨を受け取りました。

次に、王様はボラスの壁の前に立ちました。ボラスは「やったぞ! ついに大金持ちだ!」と心の中で叫び、大きな袋を広げて待ち構えました。
ところが、王様は金貨を撒こうとはしませんでした。

王様は、エイモスの側の床に積み上がった金貨を指差して、ボラスにこう言いました。
「ボラスよ。お前の壁を見てごらん。お前が望んでいたものは、もうそこにあるではないか」

ボラスが自分の壁を見ると、そこには鏡に映った「金貨の山」がキラキラと輝いていました。
ボラスは慌てて叫びました。
「王様! これはただの『映り込み』です! 私の手には一枚も金貨が入っていません!」

王様は厳しく、しかし静かな声で言いました。
「ボラスよ、お前が作ったのは、他人の努力を映し出すだけの鏡だ。本物の絵がないところに、本物の金貨を与えることはできない。お前には、お前が作った壁にふさわしい『映った金貨』をやろう。本物の金貨は、本物の汗を流した者のところにしかないのだ」

ボラスは真っ青になり、その場に泣き崩れました。
エイモスの絵は、その後何百年も宮殿を飾り続けましたが、ボラスが磨いた鏡の壁は、手入れをする人がいなくなるとすぐに曇り、ただの汚い石の壁に戻ってしまったということです。

本当の知恵とは、人を騙して楽をすることではありません。
自分の手で、自分の心を使って、価値のあるものを一歩ずつ作り上げていくこと。
それこそが、鏡に映った幻ではない、本当の幸せを運んできてくれるのです。

子どもへの問いかけ(いっしょに考えてみよう)
1) 王様がボラスに「映った金貨」をあげたとき、あなたはどう思ったかな?
2) ボラスはどうすれば、本当の金貨をもらうことができたと思う?
3) あなたが勉強やお手伝いをするとき、「ボラスのような気持ち」と「エイモスのような気持ち」、どっちに近いかな?

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