お金を3つに分ける 〜まもる・育てる・そなえる〜

お金を3つに分ける 〜まもる・育てる・そなえる〜 知恵と機転
【今日のお話のポイント】
お金は「1か所にぜんぶ置く」と、こわいことが起きたときに一気に困ります。
だから昔の知恵はこう言いました。
「お金は3つに分けて持ちなさい」――まもる・育てる・そなえる。

※このお話は、タルムードにある「資産を分散して持つ」考え方(Bava Metzia 42a で語られる教えとして知られます)を、子ども向けにやさしく物語にしたものです。

むかしむかし、にぎやかな町の角に、小さなパン屋さんがありました。
店の名前は「こむぎのひかり」。朝になると、焼きたてのパンのにおいが道いっぱいに広がります。

お店を切り盛りしているのは、まじめで働き者の父さんと、その子どものユウタ。
ユウタは学校が終わると、お店の手伝いをしていました。

ある日、ユウタはパンを運びながら、ふと父さんに聞きました。

「ねえ父さん。うちって、毎日パン売って、お金が少しずつ増えるよね。
増えたお金って、ぜんぶ貯金したほうがいいの?」

父さんは、粉のついた手をはたきながら笑いました。
「いい質問だ。じゃあ、ちょっと奥の部屋に来てごらん」

奥の部屋には、小さな机と、古い木の棚。そして棚の上に、3つの箱が並んでいました。
箱にはそれぞれ、かわいい絵と文字が貼ってあります。

  • ①「いま つかう」
  • ②「もしも の そなえ」
  • ③「ふやす たね」

ユウタは目を丸くしました。
「箱、3つもあるの?」

父さんは、椅子に座ってユウタに手招きしました。
「うん。父さんはね、お金は“3つに分ける”のがいいと思ってる」

「どうして?」

父さんは、机の上に小さな石ころを3つ置きました。
「たとえば、この石が“お金”だと思って」

そう言うと父さんは、石を1つだけ手に取り、ぎゅっと握りました。
「もしお金を“1か所にぜんぶ”集めると、こうなる」

父さんが手を開くと――石は床に落ちて、ころん、と転がっていきました。

「あっ!」

父さんはうなずきます。
「1つにまとめるのは簡単だけど、落としたら一気に全部なくなるかもしれない」
「火事、病気、こわれた機械、急な出費。『まさか』は、突然くる」

ユウタは少し黙りました。
最近、町の別の店が水漏れで休みになったことを思い出したのです。

父さんは、石を3つに分けて並べました。
「だから、分ける。分けると、どれかが困っても、全部は倒れない」

ユウタは、3つの箱を指さしました。
「それぞれ、どういう意味?」

父さんは①の箱をポンと叩きました。
「これは『いまつかう』。パン屋には、毎日の材料が必要だろ?
小麦粉、バター、電気代。ここが空っぽだと、明日パンが焼けない」

次に②の箱。
「これは『もしものそなえ』。急に冷蔵庫が壊れたり、家族が病気になったりした時のため」
「ここがあると、あわてて借金したり、あせって大事なものを手放さなくてすむ」

最後に③の箱を指でなぞりました。
「これは『ふやすたね』。未来のための種だ」
「新しいオーブンを買ってもっと美味しいパンを焼くとか、勉強して技を増やすとか、少しずつ増える可能性に回す」

ユウタは首をかしげました。
「でもさ、全部『ふやすたね』に入れたら、もっと早く増えるんじゃない?」

父さんは笑って、ユウタの頭をなでました。
「いいところに気づいた。たしかに、うまくいけば増える」
「でもね、増える道には“ゆれる日”がある。雨の日、風の日、転ぶ日もある」

父さんは、棚から小さな絵本を取り出しました。
中には、麦畑の絵が描かれています。
青空の日もあれば、嵐の日もある。

「畑だって、豊作の年もあれば不作の年もあるだろ?
だから農家は、種も食べ物も全部は使い切らない」
「お金も同じ。“増えるかもしれない”だけに全部を賭けると、嵐で一気に倒れる」

ユウタは、少しだけ怖くなりました。
「じゃあ…3つに分けたら、安心?」

父さんはうなずきました。
「安心が増える。だから落ち着いて考えられる」
「落ち着いていると、良い判断ができる」
「良い判断ができると、長い目で見て増えやすい」

そして父さんは、3つの箱を少しずつ前に出して言いました。
「この3つは、ケンカしてるんじゃない」
「3人でチームを組んでるんだ」

①は「いまを守る」
②は「もしもを守る」
③は「未来を育てる」

ユウタは、ふっと顔を上げました。
「チームか…」

その日の夜、ユウタは自分のお小遣い箱を開けました。
中には、お年玉と、手伝いでもらった少しのお金。

ユウタは紙を3枚切って、箱に貼りました。

  • 「いまつかう」(好きなお菓子や本)
  • 「もしものそなえ」(なくした時、こわれた時)
  • 「ふやすたね」(欲しい道具、勉強、未来)

そして、ゆっくり分けて入れてみました。
はじめは「少ないな…」と思ったけれど、なぜか心が落ち着いてきました。

翌日、学校で友だちが言いました。
「昨日、全部ゲームに使っちゃった! でももうお金ない!」

ユウタは、胸の中でそっと思いました。
(ぼくには“もしものそなえ”がある。だから、あわてない)

そのときユウタは気づきました。
お金を分けることは、ただのルールじゃない。
“気持ち”を守ることでもあるんだ、と。

夜、父さんに言いました。
「父さん、わかったよ。3つに分けると、安心が増えるんだね」
父さんはうれしそうにうなずきました。
「そう。お金の知恵は、心の知恵でもある」

ユウタは、3つの箱を見つめました。
「ぼくも、少しずつチームを育てていく!」

父さんは笑って言いました。
「その調子。大事なのは“完璧”じゃなくて、“続ける”ことだよ」

💭 いっしょに考えてみよう
1) もしお金を1つの場所に全部置いたら、どんな「困った」が起きそう?
2) あなたなら「いまつかう・もしものそなえ・ふやすたね」を、どんな割合にする?(例:3:3:4 など)
3) 「ふやす」より先に、「そなえ」があると良いのはどうしてだと思う?

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