・口から出る「言葉」は、人を幸せにする薬にも、傷つける毒にもなる
・自分の言葉に責任を持ち、相手を思いやる心の大切さを知る
・知恵とは、物事の両面(良いところと悪いところ)を見抜く力のこと
むかしむかし、ある国に、とても贅沢(ぜいたく)で、食べることが何よりも大好きな王様がいました。王様の宮殿には、世界中から集められた腕利きの料理人が何百人もいて、毎日豪華なご馳走を作っていました。
ある日のこと、王様はふと思いつきました。
「私はこれまで、ありとあらゆる珍味(ちんみ)を食べてきた。だが、まだ本当の『究極(きゅうきょく)』を知らない気がする。よし、わが家来の中で最も賢いトビを呼べ!」
王様は、自分に仕える一番賢い召使いのトビを呼び出し、一袋の金貨を渡してこう命じました。
「トビよ。お前に特別な任務を与える。今すぐ市場へ行き、この世で**『一番おいしいもの、一番価値のある食べ物』**を買ってまいれ。それを使って、私に最高の料理を作らせるのだ」
トビは「かしこまりました」と深くお辞儀をすると、大きなカゴを持って市場へと出かけていきました。
市場には、獲れたての新鮮な魚、脂の乗ったお肉、甘い香りの果物、そして見たこともないような高級なスパイスが並んでいました。街中の人々が「トビは何を買うんだろう?」「きっと黄金の卵か、伝説の鳥に違いない」と注目していました。
しばらくして、トビが宮殿に戻ってきました。王様はワクワクしながら、トビが持ってきたカゴをのぞき込みました。
「さあ、トビよ! 見せてみろ。世界で一番おいしい、最高の食材とは何だ?」
トビがカゴから取り出したのは、なんと、一頭の牛の**「ベロ(舌)」**でした。
王様は拍子抜けしました。「……なんだ、ただのベロではないか。珍しくもなんともない。だが、お前が選んだのだから、何か深い理由があるのだろう。よし、料理長、これを最高にうまく料理せよ!」
その夜、宮殿では「舌」の料理が出されました。その味は、驚くほど柔らかく、旨味が凝縮されていて、王様は一口食べるごとに感嘆(かんたん)の声を上げました。
「うむ、これは素晴らしい! 実にうまい。トビよ、お前がこれを選んだ理由は、この味にあるのだな?」
トビは静かに答えました。
「王様、それだけではありません。この『舌(言葉)』こそが、世界を明るく照らし、人々を幸せにし、どんな宝石よりも価値のある友情や愛を生み出すからです。ですから、これが世界で一番おいしいものなのです」
王様は「なるほど、実にかっこいいことを言う。気に入ったぞ!」と大喜びしました。
さて、数日が経ちました。王様はまたトビを呼び出しました。
「トビよ、前回の『おいしいもの』は実に見事だった。では、今度は反対に、市場へ行って、この世で**『一番まずいもの、一番価値のない食べ物』**を買ってまいれ。一番おいしいものを知ったからには、一番ひどいものも知っておきたいのだ」
トビはまた「かしこまりました」と言い、市場へ向かいました。
街の人たちはまた噂しました。「今度は何を買うんだろう?」「腐った魚か、毒のあるキノコかな?」
夕方になり、トビが宮殿に戻ってきました。王様は鼻をつまみながら、カゴをのぞき込みました。
「さあ、トビよ。覚悟はできている。世界で一番まずい、最悪の食材を見せてみろ!」
トビがカゴからゆっくりと取り出したのは……なんと、前回と全く同じ、一頭の牛の**「ベロ(舌)」**でした。
王様はこれを見て、顔を真っ赤にして怒り出しました。
「トビ! お前は私をバカにしているのか! 前回は『一番おいしい』と言ってそれを持ってきたではないか。なのに今回は、それが『一番まずい』だと? お前の知恵は、デタラメだったのか!」
王様はあまりの怒りに、持っていた杖で床をドンドンと叩きました。しかし、トビは少しもあわてず、落ち着いた声でこう言いました。
「王様、どうか落ち着いてお聞きください。
この『舌』から出る言葉が、優しく、正しく、人を励ますときに使われれば、それは世界を救う薬になり、最高の味となります。
しかし、同じ『舌』から出る言葉が、誰かを騙したり、悪口を言ったり、人の心を傷つけたりするために使われれば、それは毒よりも恐ろしい、世界で一番まずく、一番価値のないものになってしまうのです。
この世を天国にするのも、地獄にするのも、この一本の『舌』次第なのです。ですから、私はこれこそが世界で一番まずいものだと言い切れるのです」
王様は、振り上げた杖をそっと下ろしました。
トビの言う通りでした。自分が昨日、家来に投げつけた激しい怒りの言葉や、誰かをバカにしたような笑い声が、急に「一番まずい料理」のように自分の心の中に苦く広がったからです。
王様は、トビの手をとり、深くうなずきました。
「トビよ、お前は料理よりもずっと大切なことを教えてくれた。私は、今日から自分の『舌』を、世界で一番おいしい料理を作るためにだけ使うことにしよう」
それからの王様は、言葉の一つ一つをとても大切にするようになりました。
誰かを褒めるとき、誰かに感謝を伝えるとき、その言葉は宮殿中に広がり、まるでおいしいご馳走を食べたときのように、みんなを笑顔にしました。
人々は、この宮殿で出される「言葉の料理」が世界で一番おいしいと噂し、その国はいつまでも平和に栄えたということです。
この物語は、私たちに「言葉の力」を教えてくれます。
私たちは、毎日何気なく言葉を使っていますが、それは誰かにとっての「最高のご馳走」にもなれば、「最悪の毒」にもなります。
あなたが今日、家族や友達にかける言葉は、甘くておいしい味でしょうか? それとも、苦くてまずい味でしょうか?
自分の「舌」という道具を、世界を幸せにするために使える人こそが、本当の知恵者なのですよ。
1) トビが「舌」を、一番おいしいものと一番まずいものの両方に選んだのは、どうしてかな?
2) あなたが最近もらった「おいしい言葉(嬉しかった言葉)」はどんなもの?
3) 誰かが悲しい顔をしているとき、あなたの「舌」を使って、どんな味の言葉をプレゼントしてあげたい?



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