「先払い」も「あと払い」も、どちらも便利。でも、どちらもトラブルの種がある。
大事なのは気持ちの信用だけじゃなく、約束を見える形にすること。
(期限・メモ・半分だけ先払い=“手付け”など)
※このお話は、タルムードでも話題になる「売買・支払い・約束(信用)の扱い」の考え方を、子ども向けにやさしく物語にしたものです。
ハルは工作が大好きな小学生。
休みの日は、段ボールと輪ゴムで変な発明をして、家族を笑わせていました。
ある日、町の文房具屋「星のノート」で、ハルは目を輝かせます。
棚の一番上にあったのは、木の歯車がカチカチ回る“からくりキット”。
「これ、ほしい……!」
値札を見ると、ハルのおこづかいでは少し足りません。
うーん、と悩んでいると、店主のミナトさんが気づいて声をかけました。
「それ、人気なんだよ。見る目あるね」
「取り置き(キープ)する?」
ハルは顔を上げました。
「ほんと? でも今すぐ全部は払えないんだ……」
ミナトさんは少し考えて、やさしく言いました。
「じゃあ、あとで払ってもいいよ。来週くらいに」
ハルはうれしくて、思わず大きくうなずきました。
「やった!」
……でも、店を出て数歩歩いたところで、ハルの胸が少しだけザワザワしました。
(“来週くらい”って、いつ?)
(もし忘れたら?)
(ミナトさんは困らないのかな?)
家に帰って、お母さんに話すと、お母さんはにこっと笑ったあと、まじめな顔になりました。
「ハル、“あとで払う”って便利だけど、約束がふわっとしてるとトラブルになるよ」
「先払いも、あと払いも、いいところと弱いところがあるの」
「弱いところ?」
お母さんはテーブルの上に、コップを二つ置きました。
片方に水を入れて、もう片方は空。
「先払いは、こっちのコップに先に水を入れるみたいなもの」
「先に払った人は安心したいけど、もし品物が来なかったら不安になる」
次に空のコップを指さします。
「あと払いは、品物を先にもらって、あとから払う」
「買う人は安心だけど、お店は“ちゃんと払ってくれるかな”って不安になる」
ハルははっとしました。
「じゃあ、ミナトさんは不安かも……」
お母さんはうなずきました。
「そう。だからね、気持ちだけで『信じて!』じゃなくて、信じやすい形にする」
「たとえば、期限を決める。メモを残す。少しだけ先に払う。受け取りはいつ、返品はどうする、って」
ハルは、からくりキットのことを思い出して、決めました。
(明日、ちゃんと“形”を作りに行こう)
次の日、ハルは店に行きました。
「ミナトさん、昨日の取り置きの話なんだけど……」
「“いつ払うか”をちゃんと決めたい」
ミナトさんは、少し驚いた顔をしてから、うれしそうに笑いました。
「いいね。それができる子は強いよ」
ミナトさんは、レジ横から小さなカードを出しました。
文字が書けない子でもわかるように、枠がシンプルです。
- 商品名
- いつまでに払う
- いつ受け取る
- もしダメになったら(キャンセル)
「これに書こう。**“約束カード”**だ」
ハルはペンを握って書きました。
「支払い:来週の金曜まで」
「受け取り:払った日に持ち帰る」
ミナトさんは言いました。
「あとね、全部あと払いだと店は不安になりやすい。だから――」
「手付けって方法がある。少しだけ先に預かるんだ」
「手付け?」
「うん。“約束のしるし”みたいなもの」
「全部先払いだと買う人が怖いときもあるし、全部あと払いだと店が怖い」
「だから、真ん中を作る」
ハルは今日持ってきたお金から、少しだけ出しました。
ミナトさんは受け取りの印を押し、カードの控えをハルにも渡しました。
その瞬間、ハルの胸のザワザワが消えました。
(これなら忘れない)
(ミナトさんも安心できる)
一週間後。金曜日。
ハルは約束カードを握って店へ走りました。
残りのお金も、ポケットでカチャカチャ鳴っています。
「約束どおり、来たよ!」
ミナトさんは笑いました。
「待ってた。約束を守る人は、次も安心して取り置きできるからね」
ハルが全部払うと、ミナトさんはカードに「完了」の印をつけて、キットを渡しました。
箱を受け取ったとき、ハルは気づきました。
今日うれしいのは、キットを手に入れたからだけじゃない。
“約束を守った自分”が、ちょっと誇らしい。
家に帰ってキットを組み立てながら、ハルは思いました。
信用って、ふわふわした“気持ち”だけじゃなくて、
期限やメモや手付けみたいな“しくみ”で守れるんだ、と。
1) 「先払い」のいいところと、こわいところは何だった?
2) 「あと払い」のいいところと、こわいところは何だった?
3) ハルがした“トラブル予防の工夫”を、3つ言える?(例:期限/カード/手付け)



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