レヴィアタンとキツネの知恵比べ 〜心臓はどこに置いてきた?〜

レヴィアタンとキツネの知恵比べ 〜心臓はどこに置いてきた?〜 知恵と機転
【今日のお話のポイント】
・どんなに恐ろしい相手を前にしても、あわてず冷静に考える
・相手の「欲」を逆手にとって、自分を守るための知恵を出す
・「ありえない話」を信じ込ませる、対話の駆け引きを楽しむ

むかしむかし、世界中の海を支配する「レヴィアタン」という名前の巨大な怪物がいました。レヴィアタンは山よりも大きく、その背中は島のように広く、一度泳げば海に大きな渦が巻き起こるほどの大迫力でした。

ある日のこと、海の王様であるレヴィアタンは、ふと思いました。
「私はこの海で一番強くて大きいが、もっと賢くなりたいものだ。陸に住む動物の中で、一番知恵があるのは誰だろう?」

家来の魚たちが答えました。
「それはキツネに違いありません。キツネは森で一番の知恵者として知られています」

レヴィアタンはそれを聞いて、悪いことを思いつきました。
「ほう、それならそのキツネを捕まえて、心臓を食べてしまおう。そうすれば、キツネの知恵はすべて私のものになるはずだ」

レヴィアタンは、キツネを海へ連れてくるように魚たちに命じました。魚たちはキツネの大好物を用意して海岸でおびき寄せ、なんとキツネを大きなクジラの背中に乗せて、深い海の真ん中まで連れて行ってしまったのです。

キツネが目を覚ますと、そこは見たこともないほど深い海の底、レヴィアタンの宮殿の前でした。目の前には、あまりに巨大で恐ろしいレヴィアタンが、ギラギラとした目で自分を見下ろしています。

「ようこそ、キツネよ。お前を呼んだのは他でもない。お前のその素晴らしい『知恵』が詰まった心臓を、私がいただくためだ。お前の心臓を食べれば、私は世界で一番賢い王になれるのだからな!」

キツネは心臓が止まるほど驚きました。
(なんてことだ! こんな海の底で逃げ場なんてどこにもない。もし『嫌だ』と言えば、一飲みで食べられてしまう。もし『怖い』と泣き叫んでも、誰も助けてくれない。……よし、こうなったら『知恵』で勝負するしかない!)

キツネは、わざと大げさに深くため息をつき、ひどくガッカリしたような顔をして見せました。

「ああ、レヴィアタン王様! なんということでしょう。もっと早くにおっしゃってくだされば良かったのに! 私は、あなたのような偉大な王様のお役に立てるなら、喜んで心臓を差し上げましたものを……」

レヴィアタンは拍子抜けして尋ねました。
「なんだと? お前、自分の心臓を差し出すのが嫌ではないのか?」

キツネは首を振って、いかにも残念そうに答えました。
「もちろんです! でも、困ったことが一つだけあります。実は私たちキツネという生き物は、旅をするときには心臓を体にの中に入れておかない決まりになっているのです」

「……何だと? 心臓を入れない? では、お前の心臓は今どこにあるのだ?」

キツネは涼しい顔をして、陸の方を指さして言いました。
「はい。私たちキツネは、普段はとても大事な心臓を、汚したり傷つけたりしないように、海岸の砂浜にある『特別な棚』に置いて、安全に保管しているのです。ですから、今の私の体の中は空っぽなんですよ。心臓のない私を食べても、あなたは賢くなるどころか、お腹を壊してしまうかもしれません」

レヴィアタンは驚いて、魚たちと顔を見合わせました。
「おい、本当か? 心臓を外に置いておくなんて、そんなことがあり得るのか?」

キツネはもっともらしい顔をして続けました。
「もちろんです。王様、あなたは海の中で一番偉い方ですから、陸の常識をご存知ないのも無理はありません。でも、陸の知恵者である私たちは、みんなそうしているのですよ。もし、私の知恵が本当に欲しいのでしたら、今すぐ私をあの海岸まで戻してください。そうすれば、棚からピカピカに磨いた最高の心臓を持ってきて、あなたにプレゼントしましょう!」

レヴィアタンは、すっかりキツネの話を信じ込んでしまいました。「知恵が欲しい」という欲があまりに強かったので、そんなおかしな理屈を疑うことができなかったのです。

「よし、分かった! お前を海岸まで送り届けよう。その代わり、必ず心臓を持って戻ってくるのだぞ!」

レヴィアタンは、自分自身の大きな背中にキツネを乗せると、ものすごい速さで海岸へと泳いでいきました。バシャーン!という大きな波とともに、キツネはついに懐かしい砂浜へとたどり着きました。

キツネは陸に上がった瞬間、ものすごい速さで近くの高い岩山の上まで駆け登りました。そして、海の中にいるレヴィアタンを見下ろして、お腹を抱えて大笑いしました。

「ハッハッハ! おい、レヴィアタン! お前は本当に海の王様か? それとも、ただの大きなマヌケか? 自分の体の中に心臓がない生き物が、どうやってここまで歩いて来れるっていうんだ! お前は自分の知恵を磨く前に、もう少し『当たり前のこと』を考えたほうがいいぞ!」

レヴィアタンは、自分が小さなキツネに完璧に騙されたことに気づきました。
「おのれ、キツネめ! よくも私を担いだ(だました)な!」
レヴィアタンは怒って海を荒らしましたが、キツネはもう、森の奥深くへと消えていました。

キツネは森の仲間たちに、この冒険の話をして聞かせました。
「どんなに強そうな相手でも、欲に目がくらんでいるときは、意外と簡単に騙せるものさ。そして何より、絶体絶命のピンチの時こそ、ありえないような大嘘を堂々と言う勇気が、命を救ってくれるんだよ」

レヴィアタンはその後、二度と陸の動物を捕まえようとはしませんでした。彼は、キツネから「自分の知恵の足りなさ」を痛いほど教えられ、海の中で静かに暮らすことに決めたということです。

このお話は、私たちに「知恵の使い方」を教えてくれます。
力で勝てない相手でも、言葉と頭を使えば、どんな窮地(きうち)からも逃げ出すことができます。そして、自分を大きく見せようとして欲張っている人は、案外、足元をすくわれやすいものなのですよ。

新しい物語を提案します。今回は、タルムードの中でも非常にスケールが大きく、かつ「ピンチの時にどう頭を使うか」を教えてくれる愉快な寓話**「レヴィアタンとキツネの知恵比べ」**をベースにしました。 海の王者である巨大な怪物レヴィアタンを、小さなキツネが「おかしな理屈」でやり込める、タルムードらしいユーモアに溢れたお話です。 公開用スラッグ talmud-fable-leviathan-and-fox-heart 第XX話:レヴィアタンとキツネの知恵比べ 〜心臓はどこに置いてきた?〜
【今日のお話のポイント】
・どんなに恐ろしい相手を前にしても、あわてず冷静に考える
・相手の「欲」を逆手にとって、自分を守るための知恵を出す
・「ありえない話」を信じ込ませる、対話の駆け引きを楽しむ
むかしむかし、世界中の海を支配する「レヴィアタン」という名前の巨大な怪物がいました。レヴィアタンは山よりも大きく、その背中は島のように広く、一度泳げば海に大きな渦が巻き起こるほどの大迫力でした。 ある日のこと、海の王様であるレヴィアタンは、ふと思いました。 「私はこの海で一番強くて大きいが、もっと賢くなりたいものだ。陸に住む動物の中で、一番知恵があるのは誰だろう?」 家来の魚たちが答えました。 「それはキツネに違いありません。キツネは森で一番の知恵者として知られています」 レヴィアタンはそれを聞いて、悪いことを思いつきました。 「ほう、それならそのキツネを捕まえて、心臓を食べてしまおう。そうすれば、キツネの知恵はすべて私のものになるはずだ」 レヴィアタンは、キツネを海へ連れてくるように魚たちに命じました。魚たちはキツネの大好物を用意して海岸でおびき寄せ、なんとキツネを大きなクジラの背中に乗せて、深い海の真ん中まで連れて行ってしまったのです。 キツネが目を覚ますと、そこは見たこともないほど深い海の底、レヴィアタンの宮殿の前でした。目の前には、あまりに巨大で恐ろしいレヴィアタンが、ギラギラとした目で自分を見下ろしています。 「ようこそ、キツネよ。お前を呼んだのは他でもない。お前のその素晴らしい『知恵』が詰まった心臓を、私がいただくためだ。お前の心臓を食べれば、私は世界で一番賢い王になれるのだからな!」 キツネは心臓が止まるほど驚きました。 (なんてことだ! こんな海の底で逃げ場なんてどこにもない。もし『嫌だ』と言えば、一飲みで食べられてしまう。もし『怖い』と泣き叫んでも、誰も助けてくれない。……よし、こうなったら『知恵』で勝負するしかない!) キツネは、わざと大げさに深くため息をつき、ひどくガッカリしたような顔をして見せました。 「ああ、レヴィアタン王様! なんということでしょう。もっと早くにおっしゃってくだされば良かったのに! 私は、あなたのような偉大な王様のお役に立てるなら、喜んで心臓を差し上げましたものを……」 レヴィアタンは拍子抜けして尋ねました。 「なんだと? お前、自分の心臓を差し出すのが嫌ではないのか?」 キツネは首を振って、いかにも残念そうに答えました。 「もちろんです! でも、困ったことが一つだけあります。実は私たちキツネという生き物は、旅をするときには心臓を体にの中に入れておかない決まりになっているのです」 「……何だと? 心臓を入れない? では、お前の心臓は今どこにあるのだ?」 キツネは涼しい顔をして、陸の方を指さして言いました。 「はい。私たちキツネは、普段はとても大事な心臓を、汚したり傷つけたりしないように、海岸の砂浜にある『特別な棚』に置いて、安全に保管しているのです。ですから、今の私の体の中は空っぽなんですよ。心臓のない私を食べても、あなたは賢くなるどころか、お腹を壊してしまうかもしれません」 レヴィアタンは驚いて、魚たちと顔を見合わせました。 「おい、本当か? 心臓を外に置いておくなんて、そんなことがあり得るのか?」 キツネはもっともらしい顔をして続けました。 「もちろんです。王様、あなたは海の中で一番偉い方ですから、陸の常識をご存知ないのも無理はありません。でも、陸の知恵者である私たちは、みんなそうしているのですよ。もし、私の知恵が本当に欲しいのでしたら、今すぐ私をあの海岸まで戻してください。そうすれば、棚からピカピカに磨いた最高の心臓を持ってきて、あなたにプレゼントしましょう!」 レヴィアタンは、すっかりキツネの話を信じ込んでしまいました。「知恵が欲しい」という欲があまりに強かったので、そんなおかしな理屈を疑うことができなかったのです。 「よし、分かった! お前を海岸まで送り届けよう。その代わり、必ず心臓を持って戻ってくるのだぞ!」 レヴィアタンは、自分自身の大きな背中にキツネを乗せると、ものすごい速さで海岸へと泳いでいきました。バシャーン!という大きな波とともに、キツネはついに懐かしい砂浜へとたどり着きました。 キツネは陸に上がった瞬間、ものすごい速さで近くの高い岩山の上まで駆け登りました。そして、海の中にいるレヴィアタンを見下ろして、お腹を抱えて大笑いしました。 「ハッハッハ! おい、レヴィアタン! お前は本当に海の王様か? それとも、ただの大きなマヌケか? 自分の体の中に心臓がない生き物が、どうやってここまで歩いて来れるっていうんだ! お前は自分の知恵を磨く前に、もう少し『当たり前のこと』を考えたほうがいいぞ!」 レヴィアタンは、自分が小さなキツネに完璧に騙されたことに気づきました。 「おのれ、キツネめ! よくも私を担いだ(だました)な!」 レヴィアタンは怒って海を荒らしましたが、キツネはもう、森の奥深くへと消えていました。 キツネは森の仲間たちに、この冒険の話をして聞かせました。 「どんなに強そうな相手でも、欲に目がくらんでいるときは、意外と簡単に騙せるものさ。そして何より、絶体絶命のピンチの時こそ、ありえないような大嘘を堂々と言う勇気が、命を救ってくれるんだよ」 レヴィアタンはその後、二度と陸の動物を捕まえようとはしませんでした。彼は、キツネから「自分の知恵の足りなさ」を痛いほど教えられ、海の中で静かに暮らすことに決めたということです。 このお話は、私たちに「知恵の使い方」を教えてくれます。 力で勝てない相手でも、言葉と頭を使えば、どんな窮地(きうち)からも逃げ出すことができます。そして、自分を大きく見せようとして欲張っている人は、案外、足元をすくわれやすいものなのですよ。
子どもへの問いかけ(いっしょに考えてみよう)
1) キツネが「心臓を棚に置いてきた」と言ったとき、レヴィアタンはどうして信じてしまったのかな?
2) あなたがキツネだったら、巨大な怪物に捕まったとき、どんなふうに考える?
3) 「心臓」という言葉を、別の「大切なもの」に変えて、とんち話を作るとしたらどんなお話になるかな?

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