・「絶対に無理だ」と思うことでも、視点を変えれば答えが見つかる
・言葉の裏側にある意味を考えることが、知恵を育てる
・知恵は、お金や力よりも、自分や家族を救う強い武器になる
むかしむかし、ある国に、とてもプライドが高くて「自分が世界で一番賢い」と信じている王様がいました。王様は、自分の知恵を自慢するのが大好きで、時々、家来や国民にわざと難しい「無理難題(むりなんだい)」をふっかけては、困っている姿を見て楽しんでいました。
ある日のこと、王様は街で評判の正直なラビ(先生)を呼び出しました。
「ラビよ。お前は毎日、子どもたちに知恵を教えているそうだな。では、私の出すこの問題を解決してみせよ。もしできなかったら、お前の財産をすべて没収(ぼっしゅう)し、この国から追い出してやる」
王様がニヤニヤしながら出した問題は、次のようなものでした。
「明日、私の宮殿にやってくるのだ。ただし、次の条件をすべて守らなければならない。
一、服を着てくるな。だが、はだかで来てもいけない。
二、歩いてくるな。だが、馬や車に乗ってきてもいけない。
三、プレゼントを持ってこい。だが、そのプレゼントを受け取らせてはいけない。
……さあ、どうだ。明日、この通りに来られなければ、お前の負けだぞ!」
ラビは真っ青になりました。
(服を着ないではだかでもない? 歩かないで乗り物にも乗らない? そんなこと、魔法使いでもなければ無理だ……!)
家に戻ったラビは、泣きながら家族に別れを告げました。
「みんな、すまない。明日は王様にすべてを奪われてしまう。あんな理不尽な問題、解けるはずがないんだ」
ところが、その話を聞いていたラビの小さな娘、ハナが言いました。
「お父様、泣かないで。王様は難しいことを言っているけれど、実はちょっとした『とんち』を求めているだけなのよ。私に任せて。明日、私がお父様の代わりに宮殿へ行って、王様をあっと言わせてみせるわ!」
翌朝、宮殿の門の前には、たくさんの野次馬(やじうま)が集まっていました。
「ラビはどうした?」「あんな無理な条件、どうやってクリアするんだ?」
そこへ、一人の小さな女の子、ハナがやってきました。その姿を見た人々は、一瞬で静まり返り、次の瞬間に大爆笑しました。
ハナの姿は、あまりにも奇妙だったからです。
まず、一つ目の条件。「服を着ず、はだかでもない」。
ハナは、大きな「漁師の網(あみ)」を体にぐるぐると巻き付けていました。
網は糸でできていますが、隙間だらけです。服というには穴ばかりだし、かといってはだかというには糸に包まれています。
次に、二つの目の条件。「歩かず、乗り物にも乗らない」。
ハナは、一頭の「ヤギ」を連れていました。そして、右足だけをヤギの背中に乗せ、左足は地面につけて、ケンケンをするようにして進んできたのです。
これなら、ヤギに乗っているわけでもないし、普通に歩いているわけでもありません。
門番たちは驚いて、すぐに王様に報告しました。
「王様! 大変です! ラビの娘が、とんでもない姿でやってきました!」
王様はバルコニーからハナを見下ろし、呆(あき)れながらも感心して言いました。
「ほう……面白いことを考えたな。だが、三つ目の条件はどうだ? 『プレゼントを持ってくるが、受け取らせない』。これだけは無理だろう。さあ、持ってきなさい!」
ハナはニコニコしながら、小さな箱を差し出しました。
「王様、これは私からのプレゼントです。どうぞお受け取りください」
王様が「どれどれ」と箱の蓋を開けようとした、その瞬間です!
箱の中から、一羽の小さな小鳥がパッと飛び出しました。
「ああっ!」
王様が慌てて手を伸ばしましたが、小鳥はそのまま空高く、どこまでも逃げていってしまいました。
ハナは静かにお辞儀をして言いました。
「王様、残念でしたね。私はプレゼントをお持ちしましたが、王様がお受け取りになる前に、逃げてしまいました。ですから、条件通り『お渡ししたけれど、受け取らせてはいない』ことになりますね」
王様はしばらくポカンとしていましたが、やがてお腹を抱えて大笑いし始めました。
「参った! 降参だ! 私はこの国で一番賢いと思っていたが、こんな小さな女の子の知恵に完敗(かんぱい)してしまった。ラビよ、お前の娘は、宝石よりも輝く知恵を持っているな!」
王様は約束通り、ラビの財産を守っただけでなく、ハナの賢さを称えて、たくさんの本と勉強道具をプレゼントしました。もちろん、今度はちゃんと「手渡し」で受け取れるようにね。
ハナは家に帰り、お父さんにこう言いました。
「お父様、王様は『力』を見せびらかしたかっただけなの。でも、私たちは『知恵』を使って、王様と仲良くなることができたわ。知恵は、戦わずに勝つための魔法なのよ」
それからというもの、王様は無理難題を出すのをやめ、困ったことが起きるとハナやラビに相談する、とても謙虚で立派な王様になったということです。
このお話は、私たちに「考える力」の楽しさを教えてくれます。
「はだかだけど、はだかじゃない」なんて、一見するとおかしな言葉遊びに聞こえるかもしれません。でも、ハナのように「どうすればその言葉を形にできるかな?」と工夫する心があれば、どんなに高い壁も、パズルのように楽しく解き明かすことができるのです。
1) ハナが「漁師の網」を巻いてきたのは、どうしてだったかな?
2) あなたが王様だったら、ハナの知恵を見てどんな気持ちになったと思う?
3) もしあなたが「空を飛んでいないけれど、地面にもいない」という条件を出されたら、どんな姿で王様に会いに行く?(一緒に考えてみてね!)


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