王様からの招待状と、三人の友だち

王様からの招待状と、三人の友だち 学びと対話
【今日のお話のポイント】
・本当の豊かさは、目に見える持ち物の量では決まらない
・「お金」や「物」が自分をどこまで守ってくれるか、その限界を知る
・誰かのためにした「善い行い」こそが、一生の宝物になる

むかしむかし、ある大きな街にエイブラムという商人が住んでいました。エイブラムはとても熱心に働く男で、街の人からは「成功者」と呼ばれていました。彼には、いつも大切にしている「三人の友だち」がいました。

一人目の友だちは、**「お金(財産)」**です。
エイブラムはこの友だちを一番愛していました。毎日、金貨の詰まった袋を眺めては、「これさえあれば、どんな困難も怖くない。美味しい料理も、立派な馬車も、みんなこいつが連れてきてくれるんだ」と話しかけていました。
エイブラムにとって、お金は単なる道具ではありませんでした。片時も離れず、自分の願いを何でも叶えてくれる、世界で最も頼りになる「親友」のような存在だったのです。

二人目の友だちは、**「家族や親戚、そして仲間の商人たち」**です。
彼らとは、お祭りやお祝いのたびに集まって、にぎやかに食事を楽しみました。エイブラムが困ったときには知恵を貸してくれ、悲しいときには肩をたたいて励ましてくれる。そんな温かい絆(きずな)を持つ、大切な仲間たちでした。

そして三人目の友だちは、**「善い行い(人助けや正しい心)」**です。
しかし、エイブラムはこの友だちのことを、少し「地味で退屈な存在」だと思っていました。たまに募金をしたり、貧しい人に親切にしたりすることもありましたが、忙しくなると真っ先に忘れてしまいます。「善い行いなんて、後回しでもいいさ。今はもっと大切なお金や付き合いがあるんだから」と、いつも隅っこに追いやっていました。

そんなある日のこと、街中に響き渡るような大きなラッパの音が聞こえました。
王様からの使いが、エイブラムの家の前に現れたのです。使いは厳しい顔で、一枚の大きな招待状を差し出しました。

「エイブラムよ。王様が至急、お前を宮殿に呼んでいる。これまでの人生で、お前がどのように時間を使い、何をしてきたか。そのすべてを王様の前で詳しく報告してもらう。今すぐ、私と一緒に来なさい」

エイブラムは震え上がりました。
「王様の前で報告だって? 私は悪いことはしていないつもりだが、自分一人であの厳格な王様にお会いするなんて、怖くて足がすくんでしまう……。誰か、誰か一緒についてきて、私の味方をしてくれないだろうか」

エイブラムは必死の思いで、三人の友だちのところへ相談に行くことにしました。

まず、一番信頼していた**一人目の友だち「お金」**のところへ駆け込みました。
「お願いだ! 私の親友よ。お前には今までたくさんの時間を使い、一番大切にしてきただろう? 王様が私を呼んでいるんだ。一緒についてきて、私がどれだけ価値のある人間か、王様に説明してくれないか!」

すると、金貨の袋は冷たく、カチャリと音を立てて答えました。
「いいや、エイブラム。私はお供できないよ。私はこの家から一歩も出ることができないんだ。お前がここを出た瞬間、私は別の人の持ち物になるだけさ。私は『物』であって、お前の運命までは背負えないんだよ。さよなら」

一番信じていた友だちに裏切られ、エイブラムは大きなショックを受けました。
「あんなに大切にしてきたのに、いざという時には何もしてくれないのか……」

次に、エイブラムは**二人目の友だち「家族や仲間たち」**のもとへ走りました。
「みんな、頼む! 王様の宮殿まで一緒についてきてくれないか。一人では怖くてたまらないんだ。私のことを王様に褒めてほしいんだ!」

家族や仲間たちは、悲しそうな顔をしてエイブラムを抱きしめました。
「エイブラム、本当に行かなくてはならないのか。わかった。宮殿の門の前までなら、一緒に行ってあげよう。でも、ごめんよ。王様が座るあの部屋に入ることができるのは、お前一人だけなんだ。私たちは門の外で、お前の無事を祈りながら待つことしかできないんだ」

エイブラムは絶望しました。門の前まで来てくれるのはありがたいけれど、本当に助けが必要な場所では、やはり一人ぼっちになってしまうのです。

最後に、エイブラムはこれまでずっと無視し続けてきた、**三人目の友だち「善い行い」**のところへ行きました。
彼は部屋の隅で、ほこりをかぶったまま静かに座っていました。エイブラムは申し訳ない気持ちでいっぱいに、震える声で尋ねました。
「……こんな時だけ君を頼る私を、笑ってくれてもいい。君をずっと粗末にしてきた私が悪いんだ。でも、もし、もしよければ、王様のところまでついてきてはくれないだろうか?」

すると、その「善い行い」という友だちは、スッと立ち上がり、エイブラムの手を優しく包み込みました。
「エイブラム、ずっと待っていたよ。君が私のことを忘れていても、私は君がしてくれたすべての『良いこと』を一つも忘れていないよ。心配しなくていい。私は宮殿の門も通り抜けるし、王様の目の前まで、いや、その先のどこまでも、君と一緒に歩いていこう。王様に、君がいかに誠実に生きようとしたか、私がすべてお話ししてあげるよ」

エイブラムの目から、大粒の涙がこぼれ落ちました。
自分が一番ないがしろにしていた存在が、実は自分のことを一番深く愛し、最後まで見捨てずにいてくれる唯一の友だちだったのです。

エイブラムは、その三番目の友だちと手をつなぎ、宮殿へと向かいました。
門の前で二人目の友だち(家族)とお別れし、エイブラムはたった一人の付き添い(善い行い)と共に、王様の前に立ちました。

三番目の友だちは、エイブラムが昔、近所の子どもに読み書きを教えたこと、病気で動けない人のために買い物に行ったこと、そして、たとえ少しであっても、困っている人のために汗を流したことを、一つ一つ美しく、堂々と王様に語りました。
王様はその話を聞き、満足そうに微笑んで言いました。
「エイブラムよ。お前は立派な宝物を持っているな。その友だち(善い行い)こそが、お前の本当の価値だ。安心して家に帰りなさい」

無事に家に戻ったエイブラムは、それからの生き方をガラリと変えました。
お金を稼ぐことも、家族と過ごすことも大切にしましたが、それ以上に、三番目の友だちである「善い行い」を育てることに、一番の時間を使うようになったのです。

「お金は家まで、家族は門まで。でも、善い行いは永遠に私と一緒にいてくれる」
その知恵を知ったエイブラムの心は、どんな金貨を積み上げた時よりも、深く、穏やかな幸せで満たされたということです。

子どもへの問いかけ(いっしょに考えてみよう)
1) 一番目のお金は、どうして宮殿までついてきてくれなかったのかな?
2) あなたなら、王様の前で「三番目の友だち」にどんなことをお話ししてほしい?
3) これから「三番目の友だち」と仲良くなるために、明日からできる小さなことは何かな?

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