・お金を貸すことは「信じること」
・取り立て方しだいで、人間関係も未来も変わる
・相手を追い詰めないことが、結果的に返ってくる近道
町の外れに、小さな文房具屋がありました。
ノートや鉛筆、色ペンが並ぶ、子どもに人気のお店です。
その店でよく顔を合わせる二人がいました。
一人は、まじめで計画的なアオ。
もう一人は、少しおっちょこちょいだけれど人懐っこいリクです。
ある日、リクが困った顔でアオに話しかけました。
「ねえ……今月、どうしてもノート代が足りなくて」
「来月返すから、少し貸してもらえないかな」
アオは少し考えました。
(来月返すって言ってるし、リクだし……)
アオはうなずき、財布からお金を出しました。
「いいよ。でも、来月ね」
「うん!ありがとう!」
そのときは、それで終わりでした。
ところが、来月になっても、リクから何も言ってきません。
アオの胸に、小さなトゲが刺さりました。
(忘れてるのかな)
(それとも、返す気がない?)
数日後、アオは意を決して声をかけました。
「リク、あのときのお金……」
「あ、あれね!」
リクは慌てて言いました。
「ごめん、今ちょっと大変で……来週には必ず」
アオはうなずきましたが、心はざわざわしました。
さらに一週間が過ぎました。
今度は、アオのほうがイライラしてきます。
(約束したのに)
(ちゃんと言ってくれればいいのに)
ついにアオは、強い口調で言ってしまいました。
「いつ返すの?」
「もう二週間たってるよ」
リクは顔を伏せました。
「……ごめん。家のことでちょっと」
声は小さく、元気がありません。
アオはその様子を見て、言葉に詰まりました。
(こんな言い方、したかったわけじゃないのに)
その日の帰り道。
アオは、近所でよく相談に乗ってくれる大人に、このことを話しました。
「貸したお金が返ってこないんです」
「ちゃんと返してほしい。でも、言うたびに気まずくなって……」
大人は静かに聞いてから、こう言いました。
「いい質問だね」
「じゃあ、聞くけど」
「“返してほしい”って、何のため?」
アオは考えました。
「……お金が必要だから」
「それと、約束だから」
大人はうなずきました。
「そうだね。でもね」
「取り立てって、“勝つ”ためにするものじゃない」
「“返せる状態”を守るためにするものなんだ」
「返せる状態……?」
「追い詰められた人は、逃げる」
「逃げると、余計に返せなくなる」
「だから、本当に賢い取り立ては“やさしい”」
アオはハッとしました。
次の日。
アオはリクに、前とは違う言い方をしてみました。
「この前は、きつく言ってごめん」
「返してほしい気持ちはあるけど」
「リクが困ってるなら、どうしたら返せそうか一緒に考えたい」
リクは驚いた顔をして、それからぽつりぽつり話しました。
「実は、家の用事でお金が必要になって」
「おこづかいが全部そっちにいってて……」
アオは聞きながら、思いました。
(責めるより、聞くほうがいい)
二人で考えて、こんな約束をしました。
・今月は半分だけ返す
・残りは来月
・もし難しそうなら、先に相談する
「これなら、できそう?」
アオが聞くと、リクは何度も頷きました。
「ありがとう……」
「逃げなくていいって思えた」
その言葉を聞いて、アオの胸が少し軽くなりました。
数週間後。
リクは約束どおり、少しずつ返してくれました。
全部返し終えた日、リクは言いました。
「ちゃんと話してくれて、ありがとう」
「あのまま責められてたら、たぶん……逃げてた」
アオは思いました。
(やさしく取り立てるって、甘やかすことじゃない)
(相手と未来を切らないことなんだ)
お金は戻ってきました。
それ以上に、信頼も戻ってきました。
1) アオは、最初どんな言い方をしてしまった? それはなぜだと思う?
2) やさしい取り立てって、「返さなくていい」という意味かな?
3) もしあなたが貸す側・借りる側だったら、どんな約束をすると安心できそう?



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