命を助けたヘビの恩返し? 〜キツネが下した「正しい」判決〜

命を助けたヘビの恩返し? 〜キツネが下した「正しい」判決〜 知恵と機転
命を助けたヘビの恩返し? 〜キツネが下した「正しい」判決〜
【今日のお話のポイント】
・恩を仇で返すような、理不尽な理屈に振り回されない知恵を持つ
・困ったときは、一度状況を「元通り」にして冷静に眺めてみる
・本当の正義とは、言葉の罠を見抜き、正しい場所へ戻すこと

むかしむかし、ある暑い夏の日のことです。一人の旅人が、山道を歩いていました。すると道の脇で、一匹の大きなヘビが、崩れ落ちてきた巨大な岩の下敷きになって、苦しそうに身悶えしていました。

「助けてくれ……旅の人、どうかこの岩をどかして、私を助けておくれ……」

ヘビは今にも死にそうな声で頼みました。旅人は、ヘビが毒を持っているかもしれないと少し怖かったのですが、あまりに可哀想だったので、力を振り絞って大きな岩を持ち上げ、ヘビを助け出してやりました。

ところが、自由になった途端、ヘビはシュルシュルと旅人の体に巻き付き、鋭い牙を剥いて今にも噛み付こうとしたのです!

「おい、ヘビくん! 何をするんだ! 私は君の命を助けてあげたんだぞ!」
旅人は驚いて叫びました。しかし、ヘビは冷たい目でこう答えました。

「ふん、ありがたいことだ。だがな、旅人よ。この世界には**『恩を仇で返す(良いことをされたら、悪いことで返す)』**というルールがあるのを知らないのか? 私はお前を食べて、私の空腹を満たすことに決めた。それがこの世の真理(しんり)なのだよ」

「そんなバカな話があるか! 助けてもらったなら、お礼をするのが当たり前だろう!」

二人は激しく言い合いましたが、決着がつきません。そこでヘビはこう提案しました。
「よし、それなら近くにいる者に聞いてみよう。もし三人が『恩を仇で返すのが当たり前だ』と言ったら、私はお前を食べる。どうだ?」

旅人は「そんなひどいことを言う奴が三人もいるはずがない」と思い、その勝負を受けました。

まず二人が出会ったのは、一頭の年老いた**「牛」**でした。
旅人が事情を話すと、牛は悲しそうな顔をしてこう答えました。
「旅人さん、残念ながらヘビの言う通りだよ。私は若い頃、人間に尽くして毎日畑を耕した。でも、年をとって働けなくなると、人間は私を殺して肉にしようとする。人間こそ、恩を仇で返す名人じゃないか。ヘビくん、その男を食べてしまいなさい」

旅人は青ざめました。一人目はヘビの味方だったのです。

次に出会ったのは、一本の大きな**「古い木」**でした。
「木さん、助けておくれ。ヘビが私を食べようとしているんだ」
すると、木はガサガサと枝を鳴らして答えました。
「旅人よ、牛の言う通りだ。人間は夏の暑い日に私の影で休み、涼しさを楽しむ。それなのに、冬になると私の枝を切り、最後には私を根っこから切り倒して薪(まき)にしてしまう。恩を仇で返すのが人間のやり方だ。ヘビくん、遠慮はいらないよ」

「そんな! あと一人……あと一人がダメなら、私は食べられてしまう!」
旅人が絶望しかけたその時、向こうから一匹の**「キツネ」**がやってきました。

キツネは二人の話を聞くと、首を傾げて、いかにも不思議そうな顔をしました。
「うーん、お話は分かりました。でも、私にはどうしても信じられないのです。こんなに小さな旅人さんが、あんなに巨大で重そうな岩を持ち上げられるはずがありません。きっとお二人とも、私を担いで(だまして)いるのでしょう?」

ヘビはムキになって答えました。
「本当だとも! 嘘だと思うなら、見せてやる!」

キツネはわざと、もっと疑わしそうな顔をして言いました。
「いやいや、言葉だけでは分かりません。私は、実際にその現場を見て、同じ状況にならないと、正しい判決は下せませんよ。さあ、あの岩のところへ戻りましょう」

三匹と一人は、元の場所に戻りました。
「さあ、ヘビくん。君はさっき、どんなふうに挟まっていたんだい? 同じ形になってみてくれないか」

ヘビは「簡単さ!」と言って、岩があった場所に体を丸めて横たわりました。
「旅人さん、あなたも。さっきと同じように、岩をヘビの上に乗せてみて。どれくらいの重さだったか確認したいんだ」

旅人は言われた通りに、巨大な岩を持ち上げ、ヘビの上に乗せました。
「グエッ……! おい、キツネ! これだよ、この通りだ! 苦しくて死にそうだったんだ!」
ヘビは岩の下で、さっきと同じように身動きが取れなくなりました。

それを見たキツネは、さっきまでの「トボけた顔」をサッとやめて、旅人にニッコリと微笑みました。

「さて、旅人さん。状況は元通りになりましたね。
このヘビは、助けてもらっておきながら、あなたを食べようとした『恩知らず』です。
さあ、そんな悪い奴のことは放っておいて、今のうちにさっさと自分の道を行きなさい。
判決は以上です。お疲れ様でした!」

「あ……! そうか!」
旅人はキツネの知恵にようやく気づきました。ヘビは岩の下で「おい! 出してくれ! 嘘だろう!」と叫びましたが、もう誰も耳を貸しません。

キツネはしっぽを振りながら、旅人にこう言いました。
「旅人さん、親切にするのは素晴らしいことだけど、相手がどんな相手か、そして自分の身をどう守るかを知るのも、同じくらい大切な知恵なんだよ。……あ、それと、これからは岩を持ち上げる前に、一度深呼吸して考えることだね!」

キツネはそう言い残すと、軽やかな足取りで森の奥へと消えていきました。
旅人は、自分の命を救ってくれた小さな知恵者に感謝しながら、今度こそ安全な旅を続けたということです。

このお話は、私たちに「論理」と「勇気」を教えてくれます。
世の中には、自分勝手な理屈(恩を仇で返すのが当たり前だ、など)を押し付けてくる人がいるかもしれません。そんな時、力で対抗するのではなく、一度状況を整理して、「そもそも何が正しかったのか」を落ち着いて見つめ直すこと。
キツネの出した「元に戻す」という答えは、意地悪な相手をやり込めるための、最高に賢い「とんち」だったのですね。

子どもへの問いかけ(いっしょに考えてみよう)
1) ヘビが言った「恩を仇で返すのがこの世のルールだ」という考えを、あなたはどう思う?
2) キツネが「岩の下にもう一度入ってみて」と言ったとき、キツネは何を考えていたと思う?
3) あなたがもし、誰かに親切をしたのに意地悪を言われたら、どんなふうに言い返すかな?

コメント

タイトルとURLをコピーしました