・自分の「やりたいこと」が、誰かを困らせていないか考える力
・仲間との約束や協力は、最後まで責任を持つことが大切
・「自分がされて嫌なことは、人にもしない」という黄金律
むかしむかし、ある川のほとりに、一匹のキツネと一頭のラクダが住んでいました。二匹はそれなりに仲が良かったのですが、キツネはいつも自分の得(とく)になることばかり考えている、ずる賢いところがありました。
ある日のこと、キツネは川の向こう岸に、村人たちが育てているそれはそれは見事な「サトウキビ畑」があるのを見つけました。
「うわあ、おいしそうだなあ! でも、僕は泳げないし、あの広い川を渡ることはできないぞ……」
キツネはしばらく考え込んで、近くでのんびりと草を食べていたラクダのところへ走っていきました。
「やあ、ラクダくん! いいニュースがあるんだ。川の向こう岸に、君の大好物のサトウキビが山ほど実っている畑を見つけたよ。どうだい、僕を背中に乗せて川を渡ってくれないか? 二人でお腹いっぱい食べようじゃないか!」
ラクダはのんびりした性格だったので、「それはいい考えだね」と二つ返事で承知しました。キツネを広い背中に乗せると、ラクダはゆったりとした足取りで深い川を渡り、向こう岸のサトウキビ畑へとたどり着きました。
畑に着くと、二匹は夢中で食べ始めました。
キツネは体が小さいので、畑の隅にある小さな野菜や、地面に落ちたサトウキビの破片をチョロチョロと、あっという間に食べてしまいました。
「ふう、お腹いっぱいだ! やっぱり泥棒して食べるご馳走は最高だね!」
ところが、ラクダは体が大きいので、お腹がいっぱいになるまでにはまだまだ時間がかかります。ラクダがシャリシャリとおいしそうにサトウキビを噛んでいる横で、お腹がいっぱいになって退屈したキツネは、とんでもないことを思いつきました。
「ああ、お腹がいっぱいになると、なんだか楽しくなってきちゃった。僕はね、食後には大きな声で歌をうたう習慣があるんだ。よし、一曲うたうぞ!」
ラクダは驚いて、口にサトウキビをくわえたまま言いました。
「待っておくれ、キツネくん! 今ここで歌をうたったりしたら、村の人たちに気づかれてしまうよ。私はまだ半分も食べていないんだ。お願いだから、私が食べ終わるまで静かにしていておくれ」
しかし、キツネはニヤニヤしながら答えました。
「いやいや、ラクダくん。これは僕の『習慣』なんだ。歌をうたわないと、食べたものが消化(しょうか)されないんだよ。我慢できないんだ、ごめんよ!」
そう言うなり、キツネは空を仰いで、「ワォォォーーン! キャンキャン!」と、森中に響き渡るような大きな声で遠吠(とおぼ)えを始めました。
その声を聞いて、村の農夫たちが「泥棒だ! 誰かいるぞ!」と棒を持って飛び出してきました。
キツネは体が小さくて素早いので、村人が来るのを見るとササッと茂みに隠れてしまいました。しかし、大きなラクダは隠れる場所がありません。逃げ遅れたラクダは、怒った村人たちに棒で散々(さんざん)叩かれ、こぶを腫(は)らしながら、命からがら川辺まで逃げてきました。
ようやく茂みから出てきたキツネは、痛がるラクダを見て、悪びれもせずに言いました。
「やあラクダくん、散々な目にあっちゃったね。さあ、王様が来る前に、僕を背中に乗せて向こう岸へ帰してくれよ」
ラクダは何も言わず、キツネを背中に乗せて川に入りました。
川のちょうど真ん中、一番深くて流れが速い場所まで来たとき、ラクダが静かに口を開きました。
「なあ、キツネくん。私はね、今、とっても『踊りたい』気分なんだ」
キツネはひっくり返らんばかりに驚きました。
「何だって!? ラクダくん、冗談はやめてくれ! こんな川の真ん中で踊ったりしたら、僕は振り落とされて溺(おぼ)れて死んでしまうよ!」
ラクダは、キツネがさっき言ったのと同じような口調で答えました。
「いやいや、キツネくん。これは私の『習慣』なんだ。棒で叩かれたあとは、背中を大きく揺らして踊らないと、体の痛みが取れないんだよ。どうしても我慢できないんだ、ごめんよ」
「待て! やめてくれ! 助けて……!」
キツネの叫びも虚(むな)しく、ラクダは川の中で体を大きく左右に揺らし、バシャバシャと激しく踊り始めました。キツネはラクダの背中から滑り落ち、冷たい川の中にドボンと落ちてしまいました。
「うわあ! 助けて! 泳げないんだ!」
溺れそうになってアップアップしているキツネを、ラクダは長い首でひょいとくわえ上げ、岸まで運んでやりました。
びしょ濡れになってガタガタ震えているキツネに、ラクダは穏やかな声でこう言いました。
「キツネくん。君の『歌いたい気持ち』が私に棒の痛みをもたらしたように、私の『踊りたい背中』が君に冷たい水の怖さを教えたね。自分のことしか考えない習慣は、結局は自分に返ってくるものなんだよ」
キツネは恥ずかしさで顔を真っ赤にしました。自分がしたわがままが、どれほどラクダを傷つけていたのかを、ようやく理解したのです。
それからのキツネは、何かをするときには必ず「これは友達を困らせないかな?」と一度立ち止まって考えるようになりました。
そして二人は、本当の意味で信頼し合える、良いパートナーになったということです。
この物語は、私たちに「自由と責任」について教えてくれます。
「自分の習慣だから」「自分の勝手だから」と言って、周りの人の迷惑を考えずに振る舞うのは、本当の自由ではありません。仲間と一緒に何かを成し遂げるときには、相手の立場を思いやり、最後までお互いを助け合うこと。それこそが、どんな困難な川も無事に渡り切るための、一番の知恵なのですよ。
1) キツネが畑で歌をうたったとき、ラクダがどんな気持ちだったか想像できるかな?
2) ラクダが川の中で「踊りたい」と言ったのは、どうしてだったと思う?
3) あなたの「やりたいこと」が、もし誰かを困らせそうになったら、あなたならどうする?



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