働く手は、いちばん誇らしい 〜三つの小さな袋〜

働く手は、いちばん誇らしい 〜三つの小さな袋〜 知恵と機転
【今日のお話のポイント】
仕事は恥じゃない。だれかの役に立つことは、胸を張っていい。
そして、お金は1つにまとめず3つに分けて守ると、心も家計も安定する。

※このお話は、タルムードで語られる「働くことの大切さ(仕事は恥ではない)」という考え方と、「お金を三つに分ける(分散)」の教え(Bava Metzia 42aで知られる話題)を、子ども向けにやさしく物語にしたものです。

町の角に、小さな修理屋さんがありました。
看板には、ねじ回しの絵が一つ。店の名前は「なおして、つなぐ」。

店主のタケルさんは、壊れた椅子、ゆるんだかばんの金具、動かなくなったおもちゃまで、何でも直してくれます。
派手なお店じゃないけれど、困った人が最後にたどり着く場所でした。

ある日、タケルさんの息子のユウタが、学校からしょんぼり帰ってきました。
カバンを置くなり、ぽつり。

「父さん、修理屋って……ちょっとかっこ悪いって言われた」
「“ふつうの会社の人のほうがえらい”って」

タケルさんは、手を止めませんでした。
壊れた懐中電灯を、ゆっくり分解しながら言いました。

「ユウタ。じゃあ聞くけど」
「今、この町で“なくなったら困る仕事”って何だと思う?」

ユウタは、少し考えました。
「お医者さん?」
「うん。困るね」
「パン屋さん?」
「うん、困る」
「電気屋さん?」
「それも困る……」

タケルさんはにこっと笑いました。
「じゃあ、修理屋がいなくなったら?」

ユウタは、ふと自分の自転車を思い出しました。
チェーンが外れたとき、父さんが直してくれた。
傘の骨が折れたときも、直してくれた。

「……困る」
ユウタは小さく言いました。

タケルさんは、懐中電灯の中の小さなバネを手のひらにのせました。
「仕事ってな、服の見た目や肩書きで決まらない」
「だれかの“困った”を減らしてるかどうかだ」
「それができる手は、誇っていい」

ユウタの胸の奥が、少しあたたかくなりました。


その週末、タケルさんはユウタを連れて、町の掲示板の前へ行きました。
「手伝い募集」の紙が一枚、雨よけの下でひらひらしています。

“倉庫の片づけ。木箱運び。半日。お礼あり。”

ユウタは目を丸くしました。
「ぼくが?」

「うん。短い時間でもいい。自分で働いて、お礼をもらってみよう」
「“働く”って何かを体で知ると、言葉に負けなくなる」

ユウタは少しこわかったけれど、うなずきました。

倉庫はほこりっぽくて、木箱は重くて、汗がだらだら出ました。
でも、片づいていくたびに、床が見えて、空気が軽くなるのが分かりました。

終わったとき、持ち主のおじさんが言いました。
「助かったよ。これ、お礼だ」

ユウタの手のひらに、きちんと折りたたまれたお金がのりました。
ずっしり、でも温かい。

(これが……働いてもらうお金)

ユウタは、帰り道ずっと、ポケットの中を握っていました。


家に着くと、タケルさんは机の上に、小さな布の袋を三つ置きました。
それぞれ、色が少しずつ違います。
文字は書いていません。代わりに、簡単な絵が縫い付けてありました。

  • ひとつ目:パンの絵(毎日のくらし)
  • ふたつ目:屋根の絵(もしもの時)
  • みっつ目:小さな苗の絵(未来)

「ユウタ、今日のお礼を三つに分けて入れてみよう」
「え、全部使っちゃだめなの?」

タケルさんは首を振りました。
「全部使うと、明日が不安になる」
「全部ためこむと、今が苦しくなる」
「だから、ちょうどいい真ん中を作る」

ユウタは迷いながらも、お金を三つに分けました。
パンの袋に少し多め。
屋根の袋にも少し。
苗の袋にも少し。

「苗って何?」
ユウタが聞くと、タケルさんは笑いました。

「未来に増えるかもしれないお金」
「たとえば、道具を買ってもっと上手に働くとか」
「勉強のために使うとか」
「あるいは、少しずつ“育てる”ために取っておく」

ユウタは、自分の汗を思い出しました。
汗で手に入れたお金を、ちゃんと分けて守る。
なんだか、自分が少し大人になったみたいでした。


次の日、学校で昨日ユウタをからかった子が言いました。
「昨日、何してたの?」

ユウタは、前みたいにうつむきませんでした。
「倉庫の片づけ。働いた」
「大変だったけど、終わったらスッキリした」
「それで、お礼をもらった」

子は一瞬きょとんとして、ちょっと黙りました。
ユウタは続けました。

「仕事って、恥じゃないよ」
「だれかが助かったって言ってくれた」
「それって、けっこう誇れる」

その日の帰り道、ユウタは思いました。
(言葉に負けないって、こういうことか)
(働いた手と、分けたお金が、ぼくを強くしてる)

家に着くと、タケルさんがいつものように修理をしていました。
ユウタは、そっと言いました。

「父さん、修理屋って……かっこいいね」
タケルさんは、目だけで笑いました。
「そう思えるなら、君ももう大丈夫だ」

💭 いっしょに考えてみよう
1) ユウタは、どうして仕事を「かっこ悪い」と感じてしまったんだろう?
2) お金を3つに分けると、どんな“安心”が増えると思う?
3) もし君が3つの袋を作るなら、どんな名前(絵)にする?

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