一見無駄に見えるものや、小さくて弱く見える存在であっても、それぞれに大切な役割と意味があります。自分の限られた知識だけで「役に立たない」と決めつけてはいけません。すべての存在には価値があることを教えています。
昔々、イスラエルの国に、ダビデという若者がいました。
ダビデはとても賢く、神様を深く信じていましたが、まだ若く、世の中のことをすべて知っているわけではありませんでした。
ある日のこと、ダビデは王宮の庭を散歩していました。
そこは、色とりどりの花が咲き乱れ、小鳥がさえずる美しい場所でした。
ふと足元を見ると、一匹のクモが草の間でせっせと巣を作っていました。
ダビデはその様子をじっと見つめて、首をかしげました。
そして、空を見上げて神様にこう問いかけました。
「神様、あなたはなぜ、こんな生き物をお創りになったのですか?」
ダビデは心の中で思いました。
クモは汚らしいし、あちこちにベタベタした巣を張って、服を汚すだけだ。
ハチのように甘い蜜を作るわけでもないし、羊のように暖かい毛糸をくれるわけでもない。
「この世界に、クモなんていなくても誰も困らないはずなのに」
ダビデはそうつぶやくと、作りかけのクモの巣を指で払いのけて、その場を立ち去りました。
それから数年が経ちました。
ダビデの人生は大きく変わり、彼はある事情からサウル王という恐ろしい王様に命を狙われることになってしまいました。
ダビデは王宮を追われ、荒れ果てた荒野を逃げ回ることになりました。
太陽がジリジリと照りつける暑い日でした。
ダビデの喉はカラカラで、足は傷だらけです。
後ろからは、サウル王の兵士たちの馬の足音が、ドッドッドッと迫ってきます。
「もうだめだ……追いつかれる!」
ダビデは必死に隠れる場所を探しました。
すると、ゴツゴツした岩山の影に、ひとつの小さな洞窟(どうくつ)の入り口が見えました。
ダビデは最後の力を振り絞って、その洞窟の中に滑り込みました。
洞窟の中は薄暗く、ひんやりとしています。
彼は岩の陰に身を潜め、荒い息を整えようとしました。
しかし、兵士たちの足音はどんどん近づいてきます。
カチャリ、カチャリという鎧(よろい)の音や、兵士たちの話し声まで聞こえてきそうです。
「神様、どうかお助けください……!」
ダビデが祈るような気持ちで入り口の方を見ると、そこには一匹の大きなクモがいました。
それは、かつて彼が「役に立たない」と馬鹿にした、あのクモの仲間でした。
クモは、洞窟の入り口に、ものすごい速さで糸をかけ始めました。
右から左へ、上から下へ。
あっという間に、洞窟の入り口全体を覆うような、立派なクモの巣ができあがっていきます。
「ああ、なんてことだ。こんな時にクモの巣なんて……」
ダビデは絶望しました。
こんな薄っぺらな巣が、武装した兵士たちを防げるはずがありません。
むしろ、「ここに誰かいますよ」と教えているようなものではないでしょうか。
その時です。
洞窟のすぐ外に、サウル王と兵士たちが到着しました。
「王よ! この洞窟があやしいです。ダビデはこの中に逃げ込んだに違いありません!」
一人の兵士が叫びました。
ダビデは心臓が口から飛び出しそうになるほど怯え、岩にしがみつきました。
もうおしまいです。
しかし、サウル王の落ち着いた声が聞こえました。
「待て。よく見てみろ」
兵士たちは立ち止まりました。
そして、洞窟の入り口に張り巡らされた、大きなクモの巣を見上げました。
朝日を浴びて、クモの巣はキラキラと露(つゆ)を弾いて輝いています。
破れているところは一つもありません。
「もしダビデがこの中に入ったのなら、入り口のクモの巣は破れているはずだろう」
サウル王はそう言って笑いました。
「この巣は破れていない。つまり、ここには長い間、誰も出入りしていないということだ。行こう、あっちを探すぞ!」
「はっ! かしこまりました!」
兵士たちの足音は、やがて遠ざかっていきました。
シーンと静まり返った洞窟の中で、ダビデは力が抜けて座り込みました。
目の前には、風に揺れるクモの巣があります。
あの小さな虫が作った、細くて頼りない糸の壁が、ダビデの命を守ってくれたのです。
屈強な兵士の剣よりも、高い城壁よりも強く、彼を守り抜いたのです。
ダビデは涙を流しながら、そのクモに向かって深く頭を下げました。
「ごめんよ、クモさん。そしてありがとう」
そして、かつて「役に立たない」と決めつけた自分を恥じ、神様に感謝の祈りを捧げました。
「神様、私が間違っていました。この世界には、意味のないものなど一つもなかったのです」
洞窟の外には、再び明るい太陽の光が降り注ぎ、クモの巣を美しく照らしていました。
ダビデはその光景を一生忘れることはありませんでした。
さて、ここでみんなに質問だよ。
もし君がダビデだったら、クモに助けられたあと、クモにどんな言葉をかけてあげるかな?
また、君の周りに「これってなんの役に立つの?」と思っているものはある? もしかしたらそれも、いつか誰かの役に立つのかもしれないね。



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