消えない「一頭」のひみつ 〜十七頭のラクダと賢者の知恵〜

消えない「一頭」のひみつ 〜十七頭のラクダと賢者の知恵〜 知恵と機転
【今日のお話のポイント】
・行き詰まったときこそ、全く新しい「別の視点」を取り入れてみる
・自分の取り分だけでなく、全体がうまくいく方法を考える知恵
・一見、損に見える「貸し借り」が、大きな問題を解決する鍵になる

むかしむかし、はるか遠い砂漠の国に、一人の裕福な商人が住んでいました。商人はたくさんのラクダを連れて旅をし、大きな財産を築きましたが、いよいよ人生の終わりが近づいたとき、三人の息子たちを枕元に呼び寄せました。

「息子たちよ、私が亡くなったあと、財産である『十七頭のラクダ』をお前たちに譲る。ただし、分けるときには必ずこの遺言(ゆいごん)を守りなさい」

商人は、不思議な分け方を指定しました。
「長男には、全体の『二分の一』を。次男には、全体の『三分の一』を。そして三男には、全体の『九分の一』を。……いいか、一頭も殺してはならないし、売ってもいけない。生きたままこの通りに分けるのだぞ」

そう言い残して、商人は静かに息を引き取りました。

さて、残された三人の兄弟は、さっそくラクダを分けようとしました。ところが、計算を始めてすぐに、三人は頭を抱えてしまいました。

「おい、計算がおかしいぞ」と長男が言いました。
「十七頭の半分(二分の一)は、八・五頭だ。ラクダを半分に切るわけにはいかないだろう?」

次男も困り顔です。
「僕の取り分は三分の一だけど、十七を三で割ると、五・六六六……頭だ。これもキリが悪いよ」

三男は泣きそうな声を出しました。
「僕なんて九分の一だよ。十七を九で割ると、一・八八八……頭。一頭と、あと足一本分くらいになっちゃう。お父さんは一頭も傷つけてはいけないと言ったのに、どうすればいいんだ!」

兄弟たちは、何度も何度も計算し直しました。
「誰かが少し我慢すればいいんじゃないか?」
「いや、お父さんの遺言は絶対だ。勝手に変えたらバカにされるぞ」
話し合いは夜まで続き、次の日も、その次の日も決着がつきませんでした。仲の良かった兄弟は、だんだんとイライラして、ついには「お前が余分に取ろうとしているんだろう!」と喧嘩まで始めてしまいました。

そこへ、一人の年老いた賢者が、自分の一頭のラクダに乗って通りかかりました。
「お若い方々、何をそんなに争っておられるのかな?」

兄弟たちは事情を説明しました。
「お父さんが『十七頭』を『二分の一、三分の一、九分の一』に分けろと言うんです。でも算数では絶対に無理なんです。お知恵を貸してください!」

賢者は、白くて長いひげをなでながら、ニヤリと笑いました。
「なるほど、それは難しい問題だ。では、こういうのはどうかな? 私が今乗っている、この『私の一頭のラクダ』を、お前たちにあげよう。そうすれば、ラクダは全部で何頭になるかな?」

兄弟たちは驚きました。
「えっ、そんな! 先生の唯一のラクダをもらってしまうなんて……。でも、そうすると、十七足す一で、全部で『十八頭』になります」

「よろしい。では、十八頭になったところで、もう一度お父さんの遺言通りに計算してみなさい」

兄弟たちは、半信半疑で計算を始めました。すると、不思議なことが起こったのです。

まず、長男が計算しました。
「十八頭の二分の一は……『九頭』だ! おお、今度はキリがいいぞ! 八・五頭よりも多いし、大満足だ!」

次に、次男が計算しました。
「十八頭の三分の一は……六、三、十八……『六頭』だ! 五・六頭よりも多い。やった、僕も得をしたぞ!」

最後に、三男が計算しました。
「十八頭の九分の一は……九、二、十八……『二頭』だ! 一・八頭よりも多い。僕もちゃんとしたラクダを二頭もらえるなんて、夢みたいだ!」

三人は大喜びで、それぞれのラクダを自分の囲いの中へ連れて行きました。
「九頭と、六頭と、二頭……。お父さんの指定した通りだ。みんな計算通りで、しかも少しずつ得をしたぞ!」

ところが、ここで三人はまたハッとしました。
「待てよ。九足す六足す二は……いくらだ?」

九 + 六 = 十五
十五 + 二 = 十七

「……あれ!? 十七頭だ!」

そうです。兄弟たちが自分の取り分をすべて分けたあとに、なんと「一頭」のラクダが余ってしまったのです。

賢者は笑いながら、その余った一頭のラクダの背中にひらりと飛び乗りました。それは、最初に賢者が「あげよう」と言って貸してくれた、あの十八頭目のラクダでした。

「さて、お前たちの問題は無事に解決したようだね。お父さんの遺言は守られ、誰もラクダを傷つけず、全員が満足した。この一頭は、また私の旅の仲間に戻ることにしよう。では、さらばだ!」

賢者はそう言い残すと、砂漠の彼方へとゆっくり消えていきました。
兄弟たちは呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしたあと、顔を見合わせて大笑いしました。

「僕たちは、十七頭の中でなんとかしようとして喧嘩ばかりしていたけれど、あの一頭の知恵があれば、こんなに簡単に解決できたんだね」

このお話は、私たちに「余裕」と「新しい考え方」の大切さを教えてくれます。
自分たちの持ち物だけで争っていると、どうしても答えが見つからないことがあります。そんなとき、あのアドバイスをくれた賢者のように、一度「プラス一(外からの視点)」を取り入れてみる。
一見、自分のものを失うように見える「貸し出し(親切)」が、実は全員のわだかまりを消し、奇跡のような解決をもたらすことがあるのです。

計算だけではたどり着けない答えが、世の中にはたくさんある。それを知ることこそが、大人も子どもも一生使える、本当の「算数」なのかもしれませんね。

子どもへの問いかけ(いっしょに考えてみよう)
1) 賢いおじいさんが自分の一頭を貸してくれたあと、どうして計算がぴったりになったのかな?
2) あなたの周りで「どうしても上手くいかない!」と喧嘩になったとき、どんな「プラス一(新しいアイデア)」を足してみたい?
3) 三人の兄弟は、最後になんで笑い合ったんだと思う?

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