・親切をするときに、「見返り」だけを求めるとがっかりすることがある
・相手がどんなに自分勝手な人でも、自分の「善い行い」には価値がある
・最悪なことが起きなかったこと自体が、最高のごほうびになることもある
むかしむかし、ある深い森に、とても欲張りで乱暴なライオンの王様が住んでいました。このライオンは、森で一番の力持ちでしたが、とても自分勝手で、いつも「俺は一番偉いんだ。周りの奴らは俺の言うことを聞いていればいいんだ」と威張っていました。
ある日のこと、ライオン王様は大きな獲物を捕まえ、それを急いでガツガツと食べていました。あまりに急いで食べていたので、運悪く、鋭くて大きな「骨」が王様の喉に深く突き刺さってしまったのです。
「う、ウグッ……! ゲホッ、ゲホッ!」
王様は苦しくてたまりません。吐き出そうとしても、飲み込もうとしても、骨はガッチリと喉に刺さったまま動きません。声も出せず、息をするのもやっとの状態です。
「誰か……誰か、この骨を抜いてくれ……!」
王様は必死にジェスチャーで森の動物たちを呼び集めました。
ウサギ、シカ、サル、キツネ……たくさんの動物たちが集まってきましたが、みんな怖がって遠巻きに見ているだけでした。
「あんな恐ろしいライオンの口の中に顔を突っ込むなんて、無理だよ」
「骨を抜いてあげている途中に、パクッと食べられたらどうするんだ?」
動物たちが困り果てていると、王様は地面に文字を書いて、こう約束しました。
『もし私の喉から骨を抜いてくれた者には、望むだけの「最高のごほうび」をやる。命をかけて約束しよう』
「最高のごほうび」という言葉を聞いて、みんなソワソワしましたが、それでも勇気が出る者はいませんでした。やはり、ライオンの牙(きば)が怖かったのです。
そんな時、一羽のツルがパタパタと舞い降りました。ツルはとても長くて細い「くちばし」と、長い「首」を持っていました。
「王様、私がその骨を抜いてあげましょう」
ツルは、ライオンが大きく開けた口の中に、自分の長い首を恐る恐る差し込みました。
ライオンは骨の痛みに耐えて、じっと口を開けています。ツルは細心の注意を払いながら、喉の奥深く、ちょうど喉仏(のどぼとけ)のあたりに刺さっていた大きな骨を、くちばしでしっかりと挟みました。
「せーの、エイッ!」
ズズズ……と骨が抜けました。
ツルが骨をくちばしに挟んで外に出すと、ライオン王様は「ハァーッ!」と大きく息を吐き出しました。
「ああ、助かった! 生き返ったぞ!」
王様は何度も喉をさすり、またいつものように威張った態度に戻りました。
ツルはホッとして、王様の前に立って言いました。
「王様、無事に骨が抜けて良かったです。さて、約束の『最高のごほうび』をいただけますでしょうか? 私も精一杯、命がけでお助けしたのですから」
すると、ライオン王様は、意地悪な笑みを浮かべて、ツルをじろりと睨(にら)みつけました。
「ごほうびだと? お前、何を言っているんだ」
ツルは驚いて言い返しました。
「でも、王様はさっき、地面にそう書かれました。望むだけのごほうびをくださると」
ライオン王様は、大きな手で自分のたてがみを撫でながら、堂々と言い放ちました。
「お前は、自分のしたことがどれほど恐ろしいことか分かっていないのか? お前は今さっきまで、この森で一番強くて恐ろしい私の口の中に、自分の首を突っ込んでいたんだぞ。私がその気になれば、お前の首を噛み切って飲み込むことなんて、瞬きするよりも簡単にできたんだ」
王様はニヤリと笑って続けました。
「それなのに、私はお前を傷つけず、生きて帰してやった。『ライオンの口の中に首を突っ込みながら、無傷で生きて帰れたこと』。これ以上に素晴らしいごほうびが、この世のどこにあるというんだ? さあ、私の気が変わらないうちに、さっさと飛んでいけ!」
ツルは呆気(あっけ)にとられてしまいました。
「なんてことだ……。命を助けてあげたのに、ごほうびが『食べられなかったこと』だなんて!」
ツルは悲しく、そして怒った気持ちになりながら、空へと飛び立ちました。
しかし、空の上から下を見下ろしているうちに、ツルはだんだんと冷静になってきました。
「そうか……。あのライオンは、力は強くても、心はとても貧しいんだな。もし私があの時、ごほうびをもらうことばかりを考えて、助けるのをやめていたら、彼は今頃死んでいたかもしれない。私は自分の命を守りながら、誰かを助けることができた。それだけで、私の心はあの王様よりもずっと豊かで、自由なんだ」
ツルは、あのごほうびをもらえなかったことを、もう悔しがるのをやめました。
「ライオンに食べられなかったのは、確かにラッキーだった。でも、一番のラッキーは、あんなに自分勝手な王様にならずに済んだことだ!」
それからのツルは、誰かに親切をするとき、相手が「ありがとう」と言ってくれるかどうかを気にしすぎるのをやめました。
「自分が良いことをした」という事実そのものが、自分にとって一番のごほうびだと気づいたからです。
一方で、ライオン王様はどうなったでしょう。
彼はその後も、自分勝手に振る舞い続けました。しかし、ある時また喉にものを詰まらせたとき、今度は誰も助けに来てくれませんでした。王様がいくら「ごほうびをやるぞ!」と叫んでも、動物たちはみんな「どうせ嘘だろう」「食べられなかったことがごほうびなんて、もうごめんだ」と、笑って通り過ぎていったということです。
このお話は、私たちに「親切の見返り」について教えてくれます。
世の中には、せっかく助けてあげても、意地悪なことを言ったり、お礼を言わなかったりする人がいるかもしれません。でも、そこであなたが怒ってしまっては、あなたの「善い行い」が台無しになってしまいます。
ツルのように、「自分がやるべきことをやった」という誇りを持つこと。そして、最悪の事態にならなかったことに感謝して、さっと次へ進むこと。
それこそが、どんな金貨よりもあなたを強くし、心を自由にしてくれる本当の知恵なのですよ。
1) ライオン王様が言った「ごほうび」の話を聞いて、あなたはどう思った?
2) ツルが最後に「悔しがるのをやめた」のは、どうしてだと思う?
3) あなたが誰かに親切にしたとき、お礼を言ってもらえなかったら、どんなふうに考えたらツルみたいに元気にいられるかな?



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