・相手を無理に変えようとするよりも、まず「仲間」になることが大切
・「正しいこと」を押し付けるだけでは、人の心は動かない
・相手の気持ちや立場を理解する(寄り添う)ことが、最高の知恵になる
むかしむかし、ある国に、とても立派で頭のいい王子様がいました。王様も王妃様も、「この子は将来、素晴らしい王様になるだろう」と、とても楽しみにしていました。
ところが、ある朝のことです。とんでもない事件が起きました。
王子様がいきなり服を全部脱ぎ捨てて、テーブルの下に潜り込んでしまったのです。そして、喉を鳴らしながらこう叫びました。
「コケコッコー! 私は人間ではない! 私はニワトリだ!」
王様と王妃様は腰を抜かしました。
「王子よ、何を言っているんだ! 早く服を着て、テーブルから出てきなさい!」
しかし、王子様は首を振って答えました。
「ニワトリが服を着るわけがないだろう。私はここで、ニワトリとして生きるんだ。コケッ、コケコッコー!」
王子様はそのままテーブルの下に居座り、床に落ちたパンのくずやトウモロコシの粒をついばむようになりました。
王様は国中の名医(めいい)や、有名な学者たちを呼び集めました。
「誰でもいい、王子を元の姿に戻してくれ! 褒美(ほうび)は望みのままにやるぞ!」
学者たちは代わる代わるやってきて、王子様に説得を始めました。
「王子様、人間がテーブルの下にいるのは恥ずかしいことですよ」
「科学的に見て、あなたは人間です。ニワトリではありません」
しかし、王子様は「コケッ!」と鳴いて、彼らの足をつつくだけでした。誰がどんなに正論を言っても、どんなに厳しく叱っても、王子様は頑(かたくな)にテーブルの下から出てきません。
王様が「もうダメだ……」と頭を抱えていたその時、一人のみすぼらしい格好をした賢い老人が宮殿にやってきました。
「王様、私に三日だけ時間をください。王子様をテーブルから出してみせましょう」
「おお、やってくれるか! だが、どうするつもりだ? 薬を飲ませるのか? それとも魔法か?」
老人はニヤリと笑って答えました。
「いいえ。ただ、私もニワトリになるだけですよ」
老人は、王子様がいる部屋へ入ると、なんと自分も服を脱ぎ捨て(下着姿になり)、王子様の隣に潜り込みました。
王子様は驚いて尋ねました。
「お前は誰だ? どうしてここにいる?」
老人は平然(へいぜん)と答えました。
「見ての通りさ。私もニワトリだよ。よろしくな。コケコッコー!」
王子様は、自分と同じ「ニワトリ」がやってきたことが嬉しくて、すぐに老人と仲良くなりました。二人は並んで床のパンくずをついばみ、ニワトリ同士の不思議な絆(きずな)を深めていきました。
一日が過ぎた頃、老人はふと、そばに置いてあった自分の「シャツ」を手に取りました。そして、何気ない顔でそれを着始めました。
王子様は目を丸くしました。
「おい、何をしているんだ! ニワトリが服を着るなんておかしいじゃないか!」
老人はケラケラと笑って言いました。
「いいかい、王子。よく考えなさい。ニワトリが服を着てはいけないなんて、誰が決めたんだい? 服を着たって、心の中がニワトリなら、それでいいじゃないか。服を着た方が、冬は温かくて便利だぞ」
王子様は「なるほど……」と考え込みました。
「確かに、服を着たニワトリがいてもいいかもしれないな」
そして、王子様もシャツを着るようになりました。
二日目のことです。老人はテーブルの上にある「豪華な食事」を自分の皿に盛り、椅子に座って食べ始めました。
王子様はまた驚きました。
「おい! ニワトリは床で食べるものだぞ! どうして人間みたいにテーブルで食べているんだ?」
老人はまた笑って答えました。
「王子。ニワトリが椅子に座って、おいしいスープを飲んじゃいけないというルールがあるのかい? 椅子に座って食べたって、心の中がニワトリなら、立派なニワトリじゃないか。床で食べるより、腰も痛くないし快適だぞ」
王子様は「それもそうだな」と納得し、老人の隣の椅子に座って、久しぶりに温かい食事を楽しみました。
三日目の朝です。老人は王様と楽しそうに話し始めました。
王子様は首を傾げました。
「おい。ニワトリは人間と話をしないはずだろう?」
老人は王子様の目を見て、優しく言いました。
「王子よ。人間と同じように話し、人間と同じように振る舞ったとしても、自分が『ニワトリだ』という誇り(プライド)を忘れなければ、それでいいのさ。見た目が人間でも、中身は自由なニワトリでいられるんだよ」
王子様は、ハッとしました。
「そうか。私は無理にテーブルの下にいなくてもいいんだ。服を着て、椅子に座って、言葉を話しながらでも、私は私でいられるんだ!」
こうして、王子様は自らテーブルの下から出て、元の立派な格好に戻りました。
王様と王妃様は大喜びです。
「先生、一体どうやって王子を説得したのですか?」
老人は微笑んで答えました。
「相手を変えたいなら、まず自分が相手と同じ場所まで降りていくことです。相手が『ニワトリだ』と言うなら、一緒にニワトリになってあげる。否定(ひてい)せずに寄り添って、隣を歩きながら少しずつ『こっちの方がもっと楽しいよ』と見せてあげる。それこそが、凍りついた心を溶かす知恵なのです」
王子様はその後、自分の考えを押し通すのではなく、国民の一人一人の心に寄り添う、誰よりも優しい「知恵の王様」になったということです。
1) 賢いおじいさんが王子様と同じように「ニワトリ」になったのは、どうしてだと思う?
2) あなたの友達が、誰にも分かってもらえなくて困っていたら、どうやって助けてあげる?
3) 「正しいことを言う」のと、「相手の気持ちになってみる」の、どっちが仲良くなれるかな?



コメント