働く道、盗む道 〜自分の価値はどこから生まれる?〜

働く道、盗む道 〜自分の価値はどこから生まれる?〜 知恵と機転
【今日のお話のポイント】
・お金の手に入れ方は「働く」だけじゃなく「盗む」道もある
・でも、盗んだお金は自分の価値を育てない
・働くことは、未来の自分を助ける力(稼ぐ力)を積み上げること

町のはずれに、小さな市場がありました。
朝になると、野菜やパン、布や道具が並び、人の声がにぎやかに重なります。

そこで働いている少年がいました。名前はソラ
学校が終わると、ソラは市場の片隅で、箱を運んだり、掃除をしたりする仕事を手伝っていました。

「ありがとう、助かるよ」
そう言われるたび、ソラは少し胸を張りました。
お金は多くありません。でも、手のひらにのる分だけの賃金が、ちゃんとありました。

ある日、ソラは市場の裏道で、同い年くらいの少年レンと出会いました。
レンは壁にもたれて座り込み、ぼんやり空を見ています。

「何してるの?」
ソラが声をかけると、レンは肩をすくめました。
「ヒマつぶし」
「働かないの?」

レンは鼻で笑いました。
「働く? あんなに重い箱運んで、ちょっとの金?」
「バカらしいよ」

ソラは少しムッとしましたが、何も言えませんでした。


数日後。
市場が一番混む時間帯、ソラは野菜屋のおばさんに呼ばれました。

「ソラ、さっき小銭が足りなくなってね」
「レジの横に置いてた袋が…」

ソラの胸がドキンとしました。
そのとき、裏道の方でレンの姿がちらっと見えたのです。

レンは、ソラの目に気づくと、すっと目をそらしました。

その夜、ソラは家で考えました。
(もし、レンが盗んだなら…)
(働かなくても、すぐお金が手に入る)
(ずるい。でも…)

次の日。
ソラは市場で、レンに声をかけました。

「昨日さ…」
「市場でお金、なくなったって」

レンは一瞬だけ目を泳がせました。
「だから何?」

ソラは勇気を出して聞きました。
「……盗んだの?」

レンは黙りました。
しばらくして、小さく言いました。
「だったら?」

ソラは言葉を失いました。


レンは、少し強がった声で話しました。
「働かなくてもさ、取ればいい」
「誰も気づかないし」
「頭使ったほうが得だろ?」

ソラは胸の奥が苦しくなりました。
「でも、それ…」
言いかけて、止まりました。

そのとき、近くで市場の番をしている年配の男性が、二人の会話を聞いていました。
その人は、静かに声をかけました。

「若いの」
「二つの道があるとき、人は楽なほうを選びたくなる」

レンは言い返しました。
「楽なほうが悪いって決まりはないだろ」

男性はうなずきました。
「たしかに」
「でも、考えてみなさい」
「その道は、何を残す?

レンは黙りました。

男性は続けました。
「盗んで手に入れたお金は、腹は満たす」
「でもな、自分の中には何も残らない」
「次に困ったとき、また盗むしかなくなる」

ソラは、ハッとしました。
(働くって、今のお金だけじゃないんだ)


男性はソラを見て言いました。
「君は箱を運んでいる」
「それは力になる」
「人に頼まれる。信じてもらえる」
「それが“稼ぐ力”だ」

そしてレンを見ました。
「君が今選んでいる道は、信用を減らす道だ」
「一度減った信用は、取り戻すのに何倍も時間がかかる」

レンはうつむきました。
「……でも、今は金がほしい」

男性はやさしく言いました。
「じゃあ、働く道を一緒に作ろう」
「市場は、人手が足りない」

レンは驚きました。
「え、俺でも?」

「できるとも」
「ただし、最初は信じてもらえない」
「それでも、続けるか?」

レンはしばらく考えました。
そして、小さくうなずきました。


次の日から、レンは市場に来ました。
最初は掃除だけ。
誰も話しかけません。

ソラはそばで見ていました。
レンの動きはぎこちなく、すぐ疲れます。

「やっぱ、働くのだるい」
レンは弱音を吐きました。

ソラは言いました。
「でもさ」
「昨日より、今日のほうができてる」

レンは驚いた顔をしました。
そんなふうに言われたのは、初めてだったのです。

数週間後。
野菜屋のおばさんが言いました。
「レン、これお願いできる?」
レンは目を見開きました。
「……俺?」

その日、レンは初めて賃金を受け取りました。
少ない金額。でも、手が少し震えていました。

「これ、俺が…稼いだ?」

ソラは笑いました。
「うん」

レンは小さく言いました。
「盗んだときより、重いな」

ソラは思いました。
(それは、価値が入ってるからだ)


夕方、二人は市場の外で座りました。
レンは言いました。
「楽な道って、短いんだな」
「すぐ終わる」

ソラはうなずきました。
「働く道は、遠いけど」
「途中で、自分が増える」

レンは空を見上げました。
「俺、ちゃんとした自分になりたい」

ソラは答えました。
「もう、なり始めてると思う」

子どもへの問いかけ(いっしょに考えてみよう)
1) レンは、なぜ「盗む道」を選びそうになったと思う?
2) 働くことで、お金以外にどんなものが手に入る?
3) あなたが「自分の価値が増えた」と感じた経験はある?

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