ひんやり水の値段 〜買い占めは、だれを苦しめる?〜

ひんやり水の値段 〜価格のつり上げはNG〜 正義と親切
【今日のお話のポイント】
「たくさん買って、足りなくして、高く売る」――これは買い占め
一時的に得しても、町の人を困らせ、信頼をこわしてしまう。
商売で大事なのは目先の儲けより、長く続く信用

※このお話は、タルムードでも大事にされる「公正な売買」「困っている人につけこまない」という考え方を、子ども向けにやさしく物語にしたものです。

夏の終わり、町のお祭りの日。
夕方になっても暑くて、息をすると喉がカラカラになりました。

小学四年のミオは、友だちと屋台の間を歩きながら、冷たい水を探していました。
でもどの屋台も人がいっぱいで、「売り切れ」の札がどんどん増えています。

「水、もうないの?」
ミオが聞くと、焼きそば屋のおじさんは汗をぬぐって言いました。
「ごめんな。今日は暑すぎて、いつもの倍売れた」

そのとき、角のほうから大きな声がしました。
「冷たい水あるよー!ほしい人、こっち!」

見ると、同じ学年のショウが段ボール箱の前に立っています。
中にはペットボトルがずらり。ショウはちょっと得意げな顔でした。

ミオは思わず近づきました。
「ショウ、それ売ってるの?」
ショウはうなずいて、さらっと言いました。
「うん。一本300円ね」

「えっ。屋台だと150円くらいじゃ……」
ミオが言うと、ショウは肩をすくめました。
「今は水が少ないんだよ。ほしいなら買うでしょ?」

たしかに喉はからっから。今すぐ飲みたい。
でもミオの胸の中が、もやっとしました。
(なんか、ズルい感じがする……)

そこへ小さい子が走ってきました。
「のどかわいた!水ちょうだい!」
ショウは同じように言います。
「300円ね」

小さい子は小さな財布をのぞいて、しょんぼりしました。
結局、ペットボトルを見つめたまま、泣きそうな顔で去っていきました。

ミオはつい言ってしまいました。
「ショウ、それ、ちょっとひどくない?」

ショウはむっとしました。
「ひどくないよ。ぼくが朝から買って運んできたんだよ?」
「努力したんだから、高くてもいいじゃん」

努力は本当。重い箱を運んだのも本当。
でも――ミオはうまく言い返せません。

そのとき、近くの氷屋のおばあちゃんが、静かに近づいてきました。
おばあちゃんは昔から、町の人の相談にのってくれる人です。

「ショウくん、その水、どこで買ったの?」
ショウは少し自慢げに答えました。
「スーパー。朝のうちにたくさん買った」

おばあちゃんはうなずいて、やさしく聞きました。
「じゃあ質問ね。スーパーに来た人が水を買おうとしたとき、棚が空っぽだったらどうなると思う?」

ショウは少し考えて言いました。
「……別の店に行く?」

おばあちゃんは首を振りました。
「今日は暑い。小さい子も、お年寄りもいる」
「別の店に行く元気がない人もいる」
「必要なものを独り占めして、値段を上げると、困る人が先に苦しくなるんだよ」

ショウはくちびるをかんで、言いました。
「でも商売でしょ?高く売って何が悪いの?」

おばあちゃんは、ゆっくり言葉を選びました。
「利益を出すこと自体は悪くない」
「でもね、“足りない”を利用して、もっと足りなくして、高く売るのは違う」
「それは商売というより、困っている人につけこむやり方になってしまう」

ミオは胸の中で、やっと言葉が見つかりました。
(そうだ。ショウが悪い人ってより、“やり方”が問題なんだ)

おばあちゃんは続けました。
「こういうことが広がると、町はどうなると思う?」
「みんなが先に買い占めに走る」
「本当に必要な人に届かない」
「店も疑われる。人も疑い合う」
「最後に残るのは、冷たい水じゃなくて、冷たい気持ちだよ」

ショウの顔から、得意げな色が消えていきました。
段ボールの中の水が、急に重たいものに見えたようでした。

しばらくして、おばあちゃんが言いました。
「提案があるよ」
「値段を元に戻しなさい、って決めつけない」
「あなたの手間もあるからね」

ミオは驚きました。
(え、じゃあどうするの?)

おばあちゃんは指を三本立てました。
「こうしよう」

  1. 値段は180円まで(運んだ手間の分だけ)
  2. 一人一本まで(みんなに行き渡るように)
  3. なくなったら“売り切れ”で終わり(追加の買い占めはしない)

ショウは目を丸くしました。
「一人一本……」

「足りないときほど、“分ける仕組み”が大事なんだよ」
おばあちゃんの声は静かだけど、まっすぐでした。

ショウは少し下を向いて、そして段ボールのふたを開け直しました。
手書きの紙を一枚作って、前に貼ります。

水 180円
一人一本まで

それを見た小さい子が戻ってきて、笑顔になりました。
「買える!」
ミオも、胸の奥がふっと軽くなりました。

夜、お祭りが終わるころ。
ショウの水はきれいに売り切れました。

ショウは小さな声で言いました。
「もっと高くできたのにな……って思ったけど」
「でも、さっきの子の顔見たら、こっちのほうが気分いい」

ミオは笑いました。
「それが“信用”ってやつじゃない?」

ショウは照れくさそうに鼻をこすりました。
「来年は最初からルール決めてやる」
「買い占めじゃなくて、みんなが安心できるやつ」

帰り道、ミオは思いました。
商売の上手さって、値段をつり上げることじゃなくて、
人の心をつり上げないことなのかもしれない。

子どもへの問いかけ(いっしょに考えてみよう)
1) ショウはどうして水を高く売ろうとしたんだろう?(気持ちを想像してみよう)
2) おばあちゃんの「3つの提案」のうち、いちばん大事だと思ったのはどれ?
3) もしあなたが店の人だったら、「買い占め」を防ぐためにどんなルールを作る?

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