むずかしい質問をされたときこそ、相手をやっつけるより「考え方」を変える答え方がある。
人を助けることは、相手のためだけじゃなく、自分の心を強くする学びにもなるんだよ。
※このお話は、タルムードに出てくる逸話(将軍の質問に先生が答える話)を、子どもに読み聞かせやすい形にやさしく語り直したものです。
むかしむかし、学びの町に、アキバ先生という、頭がよくて話し上手な先生がいました。
先生の言葉はふしぎで、むずかしい話でも、聞いた人の心にすっと入っていくのです。
ある日、町にえらい将軍がやって来ました。
名前はルフス将軍。強い声と大きな態度で、人を見下ろすように話す人でした。
将軍は、町の広場でアキバ先生を見つけると、わざと大勢の前で言いました。
「おい、先生。お前はよく“困っている人を助けよう”と言っているな」
「はい。助け合うことは大切です」
先生は落ち着いて答えました。
将軍はにやっと笑い、急に声を大きくしました。
「なら聞くが――神さまが本当にいるなら、どうして困っている人を助けないんだ?
神さまが助ければ、みんな楽になるだろう?」
広場がしん…となりました。
人々は息をのんで先生を見ました。
(たしかに…なんでだろう?)
子どもたちも、きょとんとしています。
将軍は勝ちほこった顔で腕を組みました。
「さあ、答えてみろ。神さまが助けないのなら、助ける必要なんてないじゃないか?」
アキバ先生は少しだけ目を細め、将軍にたずねました。
「将軍。ひとつ、こちらから質問してもいいですか?」
「なんだ、言ってみろ」
将軍はあごを上げました。
「もし、王さまが“この人を反省させなさい”と言って、だれかを牢屋に入れたとします。
そのとき、牢屋の外の人がこっそりごはんを運んだら、王さまはどう思うでしょう?」
将軍は即答しました。
「そんなやつは罰だ。王の命令にさからっている」
先生はうなずきました。
「では将軍。もうひとつ。
もし牢屋に入れられたのが“王さまの大切な子ども”だったらどうでしょう?」
将軍の眉が動きました。
「……子ども、だと?」
先生は続けました。
「子どもが間違って、反省のために牢屋へ入ったとしても、王さまは本当はどう思っているでしょう。
“苦しめたい”でしょうか。それとも“立ち直ってほしい”でしょうか」
将軍は言葉につまりました。
広場の空気が少し変わりました。
先生はやさしい声で言いました。
「王さまは、子どもが立ち直ることを願います。
だから、子どもを思って食べ物を運ぶ人を見たら、怒るより――
『よくやってくれた』と思うかもしれません」
将軍は顔をしかめました。
「でも、それは王の命令にさからっているじゃないか!」
先生は首をふりました。
「さからうためじゃありません。
“王さまが本当は何を望んでいるか”を大事にしているんです」
将軍は少しイライラして言いました。
「つまり、お前はこう言いたいのか。
困っている人は、神さまの“子ども”みたいなものだと?」
先生はうなずきました。
「はい。だから助けるんです。
困っている人がいるのは悲しいこと。でも、そこで誰かが手を差し伸べると、
その人の心に“やさしさ”が育ちます」
将軍は鼻で笑いました。
「やさしさ? そんなものより、神さまが最初から全部助ければいいだろう!」
先生は、少しだけ間をおいて言いました。
「全部が最初からうまくいく世界では、
“助ける心”も、“気づく心”も育ちにくいんです」
「気づく心?」
将軍が聞き返します。
先生は広場のすみを指さしました。
そこには、重い荷物を持って困っているお年寄りがいました。
近くにいる若い人たちは、急いでいるのか、見て見ぬふりをしています。
先生は言いました。
「今、誰かが“気づいて”助けたら、あのお年寄りは楽になります。
そして、助けた人の心は、今日より少し強く、やさしくなります。
明日また別の人を助ける力にもなる」
将軍は黙りました。
先生は続けました。
「助けることは、相手の命を守るだけじゃない。
自分が“冷たい人”にならないための学びでもあるんです」
そのとき、広場の子どもが小さな声で言いました。
「……ぼく、持ってあげる」
子どもが走っていって、お年寄りの荷物の端っこを持ちました。
すると、別の人も「あ、じゃあ俺も」と手を出しました。
気づけば三人、四人が集まって、荷物を運びはじめたのです。
お年寄りは何度も頭を下げました。
「ありがとう、ありがとう…」
アキバ先生はその様子を見て、にっこりしました。
そして将軍に向き直って言いました。
「将軍。今この広場で起きたことが、答えです。
神さまが“全部を一人でやる”世界では、
この“助けの輪”は生まれにくい」
将軍は、少しだけ目をそらしました。
「……ふん。口がうまいな」
先生は、からかうようには笑いませんでした。
ただ、静かに言いました。
「言葉じゃなくて、今日の出来事が教えてくれました。
助けることは、弱い人のためだけじゃない。
助ける側の心も、きっと救うんです」
将軍は何も言わずに歩き去りました。
でも、その背中は、来たときより少しだけ小さく見えました。
将軍の質問は「助ける必要ないじゃん?」だったのに、先生はどうして答え方を変えたのかな?
もしあなたが「なんで助けるの?」と聞かれたら、どんなふうに答える?



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